近年、医薬品・化粧品業界を取り巻く環境は、医療費抑制や少子高齢化、そして消費者の価値観の多様化など、大きな変化の波に晒されています。
このような変化の激しい時代において、医薬品・化粧品卸売業は、単なる商品を右から左へ流すだけの存在ではなく、サプライチェーン全体の効率化や、医療機関・患者、そして製造販売業者に対する新たな価値提供を通じて、より一層の存在感を増していくことが求められています。
本稿では、今後の医薬品・化粧品卸売業が生き残りをかけ、成長戦略を推進していく上で重要な戦略的視点と、その上で欠かせないIT戦略の在り方について解説して参ります。
まずは、医薬品・化粧品卸売業が直面する外部環境と業界構造を把握し、今後の戦略策定に不可欠な示唆を導き出すため、PESTEL分析と5F分析を実施します。
要因 | 分析結果 |
---|---|
Political(政治) | – 後発医薬品使用促進政策による価格競争の激化 – 医療費抑制政策による収益圧迫 – オンライン診療の推進による新たな流通経路の出現 |
Economic(経済) | – 少子高齢化による医療費増加と市場拡大 – 新興国市場の成長による海外進出機会 – 原材料価格の高騰による収益圧迫 |
Social(社会) | – 健康志向の高まりによるセルフケア需要の増加 – ジェネリック医薬品への関心の高まり – オンライン診療やオンライン服薬指導の普及 |
Technological(技術) | – AIやビッグデータ分析による需要予測の高度化 – IoTを活用した在庫管理・物流の効率化 – ブロックチェーン技術によるトレーサビリティの向上 |
Environmental(環境) | – 環境規制強化による包装材削減等の対応 – 持続可能な調達による企業責任の重要性 |
Legal(法務) | – 医薬品・医療機器等法の改正による規制強化 – 個人情報保護法の改正によるセキュリティ対策の重要性 |
脅威要因 | 分析結果 |
---|---|
新規参入 | – 異業種からの参入障壁は比較的高いため、新規参入の脅威は限定的 – ただし、IT企業や物流企業の参入可能性は考慮すべき |
買い手 | – 医療機関の経営統合による価格交渉力の強化 – 調剤薬局チェーンの増加による価格交渉力の強化 – 消費者の価格比較サイト利用による価格感度の高まり |
代替品 | – ジェネリック医薬品の普及による先発医薬品のシェア低下 – セルフメディケーションの進展による市販薬の需要増加 |
競合 | – 既存卸売企業間における顧客獲得競争の激化 – 物流企業やIT企業との競争 |
売り手 | – 医薬品メーカーの販売チャネル統合による交渉力の強化 – 化粧品メーカーの直販強化による交渉力の低下 |
上記の分析結果を踏まえ、医薬品・化粧品卸売業が事業成長を遂げるために、どのような市場機会を捉え、戦略的に取り組むべきかを検討します。
市場機会 | 詳細 | attractiveness(魅力度) |
---|---|---|
ヘルスケア分野への進出 | – 健康食品やサプリメントなど、医薬品以外のヘルスケア関連商品の取扱い拡大 – 医療機関や患者向けに健康関連サービスを提供 | 〇 |
物流・サプライチェーンマネジメントの高度化 | – AI、IoT、ブロックチェーンなどの最新技術を活用し、物流センターの自動化や在庫管理の効率化を推進 – 医薬品・化粧品のトレーサビリティ向上により、サプライチェーン全体の透明性と安全性を確保 | 〇 |
デジタルマーケティングの強化 | – 医療機関や患者向けに、Webサイトやメールマガジンなどを活用した情報提供を強化 – デジタルマーケティングツールを活用し、顧客とのエンゲージメント強化 | 〇 |
海外市場への進出 | – 成長が見込まれる新興国市場へ進出し、販路拡大 | Δ |
M&Aによる事業規模拡大 | – 競合企業の買収や業務提携を通じて、事業規模を拡大し、市場競争力を強化 | Δ |
今後の医薬品・化粧品卸売市場において、勝ち残るために重要なKSFは以下の3点だと考えます。
顧客を以下のセグメントに分類し、それぞれに最適な戦略を展開します。
セグメント | 説明 | ニーズ | ターゲティング戦略 |
---|---|---|---|
大規模病院 | 病床数が多く、高度な医療を提供する病院 | 品質の高い医薬品・医療機器の安定供給、コスト削減 | 専門性の高い営業担当者によるきめ細かい対応、包括的な提案 |
中小規模病院 | 地域密着型の医療を提供する病院 | 費用対効果の高い医薬品・医療機器の提供、経営支援 | 地域密着型の営業体制、きめ細やかな情報提供 |
調剤薬局 | 処方箋に基づき、患者の服薬指導を行う薬局 | 患者の服薬継続支援、経営効率化 | 待ち時間短縮のためのシステム導入支援、経営コンサルティング |
ドラッグストア | 医薬品や日用品を販売する小売店 | 販売促進支援、品揃えの最適化 | POSデータ分析に基づいた販売促進支援、需要予測 |
医薬品・化粧品卸売業の成長には、ITを駆使したビジネスモデルの変革が不可欠です。
ここでは、具体的なIT戦略の方向性を、前述のKSFと関連付けながら解説していきます。
課題 | 具体的なIT戦略 |
---|---|
従来型の物流システムでは、需要変動への対応や在庫の最適化が困難 | – 需要予測システムの導入 – 在庫管理システムの刷新 – サプライチェーン全体の可視化 |
煩雑な受発注業務による業務効率の低下 | – 電子データ交換(EDI)の導入 – 受発注システムのクラウド化 – RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化 |
医薬品・化粧品の品質管理の徹底 | – IoTセンサーによる温度・湿度管理 – ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ向上 |
AWSサーバーレスを活用したサプライチェーンマネジメント基盤構築
AWSのサーバーレスサービス群を活用することで、従来型のオンプレミス環境と比較して、より柔軟かつスケーラブルなサプライチェーンマネジメント基盤を構築することが可能です。
具体的には、以下の様なAWSサービスの活用が考えられます。
AWSサービス | 説明 |
---|---|
AWS Lambda | イベント駆動型のサーバーレスコンピューティングサービス。需要変動に応じて自動的にスケールするため、在庫状況の変化や配送状況の更新などに柔軟に対応可能 |
Amazon API Gateway | APIを作成・公開・管理するためのサービス。受発注システムや在庫管理システムなどの外部システムとの連携を容易に実現 |
Amazon DynamoDB | フルマネージド型のNoSQLデータベースサービス。大量の在庫データや配送データを高速かつ低遅延で処理 |
Amazon SQS/SNS | メッセージキューイングサービス。システム間で非同期にメッセージを送受信することで、システム全体の耐障害性を向上 |
期待される効果
課題 | 具体的なIT戦略 |
---|---|
顧客接点のデジタル化による顧客との関係強化 | – 医療機関・薬局向けポータルサイトの構築 – 患者向けアプリによる情報提供 – オンライン相談窓口の設置 |
顧客ニーズの多様化への対応 | – 顧客データ分析によるニーズ把握 – パーソナライズ化された情報提供 – 顧客セグメントに合わせたサービス展開 |
顧客とのコミュニケーション強化 | – CRM(Customer Relationship Management)システムの導入 – MA(Marketing Automation)ツールによるマーケティング活動の効率化 |
顧客向けポータルサイトの構築
医療機関・薬局、患者それぞれに向けたポータルサイトを構築することで、顧客とのOne to Oneコミュニケーションを実現します。
期待される効果
課題 | 具体的なIT戦略 |
---|---|
膨大なデータの分析による新たな価値創出 | – データ分析基盤の構築 – 需要予測モデルの開発 – 顧客行動分析 |
経営判断の迅速化 | – ダッシュボードによるリアルタイムデータ分析 – BI(Business Intelligence)ツールによるデータ可視化 |
データに基づいた戦略策定 | – 経営指標のモニタリング – PDCAサイクルの高速化 |
データ分析基盤の構築
AWSのデータ分析サービス群を活用し、医薬品・化粧品の販売データ、顧客データ、市場データなどを統合的に分析可能な基盤を構築します。
期待される効果
医薬品・化粧品卸売業界は、医療費抑制や少子高齢化など、多くの課題に直面しています。
しかし、こうした環境変化をチャンスと捉え、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を積極的に推進することで、新たな成長の道を切り拓くことが可能になります。
特に、AWSのサーバーレスサービス群やデータ分析サービス群を積極的に活用していくことで、従来は実現が困難であった、柔軟性・拡張性に優れたシステム構築と、高度なデータ分析基盤の構築が可能になるため、競争優位性を築き、持続的な成長を実現していくために有効な武器となるでしょう。
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