化学製品卸売業の勝ち筋~最新IT戦略トレンドとAWSサーバーレス活用事例~

化学製品卸売業の勝ち筋~最新IT戦略トレンドとAWSサーバーレス活用事例~

近年、あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれていますが、化学製品卸売業界も例外ではありません。むしろ、原料価格の変動やサプライチェーンの複雑化など、業界特有の課題を抱える中で、デジタル技術の活用は企業の競争力を左右する重要な要素になりつつあります。

しかし、「具体的にどのようなIT戦略を推進すれば良いのか?」と悩まれている経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、市場トレンドを踏まえながら、化学製品卸売業におけるIT戦略の最新動向と具体的な手法、そして成功のためのポイントについて解説していきます。

1. PESTEL分析から見る化学製品卸売業界を取り巻く外部環境

化学製品卸売業の現状と将来展望を検討する上で、まずはマクロ環境分析が欠かせません。ここでは、PESTEL分析を用いて、化学製品卸売業に影響を与える主要な外部環境要因とその動向を整理してみましょう。

要因具体的な内容(例)化学製品卸売業への影響(例)
Political(政治)– 国内外の貿易摩擦、規制強化
– 環境規制の強化
– サプライチェーンにおける人権問題への関心の高まり
– 輸入コストの上昇、調達先の変更
– 環境対応型製品の需要増加、コスト増加の可能性
– サプライチェーンにおける透明性確保の必要性
Economic(経済)– 世界経済の減速懸念
– 原油価格、資源価格の変動
– 為替変動
– 需要減退による売上減
– 原材料費、製造コストの上昇
– 為替変動による輸入コスト、輸出競争力の変動
Social(社会)– SDGsへの意識の高まり
– サステナビリティ、エシカル消費の拡大
– 少子高齢化による人手不足
– 環境配慮型製品、サステナビリティ経営への対応
– 倫理的な調達、製造体制の構築
– 業務効率化、自動化への対応
Technological(技術)– AI、IoT、ビッグデータ分析技術の進化
– サプライチェーンマネジメントシステムの高度化
– 自動運転技術の発展
– 需要予測、在庫管理の高度化
– サプライチェーンの可視化、効率化
– 物流コスト削減、輸送効率の向上
Environmental(環境)– 気候変動問題の深刻化
– 環境規制の強化
– 循環型経済への移行
– 環境負荷の低い製品、製造プロセスの開発
– CO2排出量削減、廃棄物削減への取り組み
– 製品のリサイクル、リユースへの対応
Legal(法律)– 化学物質管理に関する法規制強化
– 個人情報保護法の改正
– サイバーセキュリティ対策の強化
– コンプライアンス強化によるコスト増加
– 個人情報保護対策の強化
– サイバー攻撃対策の強化

上記はあくまで一例であり、企業や製品、市場によって影響は異なります。重要なのは、自社を取り巻く具体的な外部環境要因を洗い出し、その影響度合いを分析した上で、適切な戦略を策定することです。

2. 化学製品卸売業界における「勝ち筋」とは?

PESTEL分析で見たように、化学製品卸売業界は、外部環境の変化に大きく影響を受ける事業構造と言えます。そのような中で、「勝ち筋」を見出すためには、業界構造を分析し、自社の強みを活かせるポジションを確立することが重要です。

ここでは、競争戦略のフレームワークである「5F分析」と「アドバンテージマトリクス」を用いて、化学製品卸売業界における「勝ち筋」を考察してみましょう。

2-1. 5F分析から見る業界構造

脅威化学製品卸売業界における分析
新規参入の脅威– 比較的参入障壁が低い
– 大規模な設備投資が不要
– 新規参入企業による価格競争激化の可能性
買い手の交渉力の強さ– 買い手は大手メーカーが多く、価格交渉力が強い
– インターネットの普及により、購買先の選択肢が増加
– 価格や納期に対する要求が厳しくなる傾向
売り手の交渉力の強さ– 原材料メーカーは大企業が多く、価格交渉力が強い
– 原材料価格の変動リスクが大きい
代替品の脅威– 新素材の開発や技術革新による代替品の出現
– 価格競争力の高い代替品との競争激化
競合間の敵対関係– 既存企業間での競争激化
– 価格競争、サービス競争の激化

2-2. アドバンテージマトリクス分析

5F分析の結果を踏まえ、化学製品卸売業界をアドバンテージマトリクスに当てはめてみると、「分散型事業」に分類されます。

  • 競争優位性を築きにくい
  • 多数の競合が存在する
  • 差別化が難しい

つまり、化学製品卸売業界は、独自のポジションを築きにくく、価格競争に陥りやすい構造だと言えます。

2-3. 化学製品卸売業界における「勝ち筋」

上記の分析を踏まえ、化学製品卸売業界で勝ち残るためには、以下の3つの戦略が考えられます。

  1. ニッチ市場への特化

    • 特定の顧客層や製品分野に特化し、専門性を高めることで、価格競争を回避する。
    • 専門知識やノウハウを蓄積し、顧客に独自の価値を提供する。
  2. バリューチェーンの再構築

    • 単なる「モノ売り」から脱却し、顧客の課題解決に貢献するサービスを提供する。
    • ITを活用し、在庫管理、物流、受発注などを効率化し、コスト競争力を高める。
    • サプライチェーン全体を最適化し、顧客に新たな価値を提供する。
  3. デジタル技術を活用した差別化

    • AI、IoTなどを活用し、業務効率化、需要予測精度向上、新製品開発などを実現する。
    • 顧客との関係強化や新たな顧客体験の創出につなげる。
    • デジタル技術を活用することで、競争優位性を築き、持続的な成長を実現する。

3. 化学製品卸売業におけるIT戦略の最新トレンド

それでは、具体的にどのようなIT戦略を推進すれば良いのでしょうか?ここでは、化学製品卸売業界における最新のIT戦略トレンドと具体的な手法を、以下の3つの観点から解説します。

3-1. 業務効率化・コスト削減

  • 基幹システムのクラウド化

    • 従来型のオンプレミス型システムから、クラウド型システムに移行することで、システム運用・管理コストを削減。
    • AWS、Azure、GCPなどのクラウドサービスを活用し、柔軟性・拡張性の高いシステムを構築。
    • サーバーレスアーキテクチャを採用することで、インフラ管理コストをさらに削減。
  • RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化

    • 受発注業務、在庫管理、請求処理など、定型業務をRPAで自動化。
    • 人為的なミス削減、業務効率化、生産性向上を実現。
    • 従業員はより創造的な業務に集中可能に。
  • データ分析による業務改善

    • 蓄積された販売データ、在庫データなどを分析し、業務プロセス改善、需要予測精度向上、在庫最適化などを実現。
    • BI(Business Intelligence)ツールを活用し、データに基づいた意思決定を促進。

3-2. 顧客との関係強化

  • 顧客情報の一元管理

    • CRM(Customer Relationship Management)システムを導入し、顧客情報(取引履歴、問い合わせ履歴、属性情報など)を一元管理。
    • 顧客セグメントに応じたきめ細かい営業活動、マーケティング活動を実現。
  • デジタルマーケティングの活用

    • 企業ウェブサイト、SNS、メールマガジンなどを活用し、ターゲット顧客へ効果的にアプローチ。
    • SEO対策、リスティング広告、SNS広告などを活用し、ウェブサイトへのアクセス数増加、見込み顧客獲得を促進。
  • 顧客とのコミュニケーションチャネルの多様化

    • 電話、FAX、メールに加え、チャット、Web会議システムなどを活用し、顧客とのコミュニケーションチャネルを多様化。
    • 顧客満足度向上、顧客との長期的な関係構築に貢献。

3-3. 新規ビジネスモデル創出

  • ECサイト構築による販路拡大

    • 自社ECサイトを構築し、インターネットを通じて化学製品を販売。
    • 新規顧客獲得、販路拡大を実現。
    • 顧客データの分析により、顧客ニーズに合致した製品開発、サービス開発に繋げる。
  • プラットフォームビジネスへの参入

    • 化学製品に関する情報提供、マッチング、取引などを一元的に行うプラットフォームを構築。
    • 業界全体の活性化に貢献するとともに、新たな収益源を獲得。
  • データ活用による新サービス開発

    • 蓄積されたデータ(販売データ、在庫データ、顧客データなど)を分析し、新たなサービスを開発。
    • 例えば、需要予測データに基づいた在庫管理サービス、顧客の購買履歴に基づいた商品提案サービスなどを提供。

4. AWSサーバーレス技術を活用したIT戦略

数あるクラウドサービスの中でも、AWS(Amazon Web Services)は、幅広いサービスラインナップと高い信頼性を誇り、化学製品卸売業におけるIT戦略を強力にサポートします。特に、サーバー管理が不要な「サーバーレス技術」は、開発期間短縮、運用コスト削減、スケーラビリティ向上などのメリットをもたらし、注目を集めています。

ここでは、化学製品卸売業におけるIT戦略において、AWSサーバーレス技術をどのように活用できるのか、具体的な例を見ていきましょう。

4-1. AWS Lambda を活用したデータ分析基盤の構築

化学製品卸売業では、日々の取引データ、在庫データ、顧客データなど、膨大なデータが蓄積されていきます。これらのデータを効果的に分析し、ビジネスに役立てるためには、高性能なデータ分析基盤が必要不可欠です。

AWS Lambdaは、コードを実行するためのサーバーレスコンピューティングサービスです。Lambdaを活用することで、サーバーの構築や管理を行うことなく、必要なときにだけコードを実行し、データ分析処理を行うことができます。

例えば、以下のようなデータ分析処理をサーバーレスで実行できます。

  • 販売データ分析:売上推移、商品別売上ランキング、顧客セグメント別売上分析など
  • 在庫データ分析:在庫回転率分析、滞留在庫分析、需要予測など
  • 顧客データ分析:顧客属性分析、購買履歴分析、顧客ランク分析など

Lambda関数は、Amazon S3、Amazon DynamoDB、Amazon Kinesis などの他のAWSサービスと連携させることができるため、柔軟性・拡張性の高いデータ分析基盤を構築することが可能です。

4-2. Amazon API Gateway & AWS Lambda を活用した API 開放

化学製品卸売業では、取引先とのシステム連携が求められるケースも少なくありません。API(Application Programming Interface)は、異なるシステム同士がデータ連携するためのインターフェースであり、API を公開することで、取引先とのシームレスなデータ連携を実現できます。

Amazon API Gateway は、API の作成、公開、管理、監視、セキュリティ保護を行うことができるフルマネージドサービスです。Lambda と組み合わせることで、サーバーレスで API を構築・運用することが可能になります。

例えば、以下のような API を公開することができます。

  • 在庫照会 API:取引先がリアルタイムに在庫状況を確認
  • 受発注 API:取引先とシームレスに受発注データ連携
  • 配送状況 API:取引先に最新の配送状況を提供

API を公開することで、取引先との連携を強化し、業務効率化、取引コスト削減、顧客満足度向上を実現できます。

4-3. Amazon EventBridge を活用したイベントドリブンなシステム連携

化学製品卸売業では、受注、出荷、在庫変動など、様々なイベントが発生します。これらのイベントに対してリアルタイムに処理を行うことで、業務効率化、迅速な顧客対応、機会損失の防止などを実現できます。

Amazon EventBridge は、イベントバス、ルール、ターゲットで構成されるサーバーレスイベントバスサービスです。EventBridge を活用することで、様々なイベントソースからのイベントをキャプチャし、定義したルールに基づいて、Lambda 関数などのターゲットにイベントをルーティングすることができます。

例えば、以下のようなイベントドリブンな処理を実現できます。

  • 受注イベント発生時:在庫管理システムの在庫数を更新し、倉庫システムに出荷指示を自動通知
  • 在庫不足イベント発生時:担当者にメールで通知し、仕入れ担当へ発注依頼を自動送信
  • 配送状況更新イベント発生時:顧客に配送状況をメールで自動通知

EventBridge を活用することで、イベントドリブンなシステム連携を容易に実現し、柔軟性・拡張性の高いシステムを構築することが可能です。

5. まとめ

化学製品卸売業は、市場環境の変化に柔軟に対応し、競争優位性を築くことが求められています。そのためには、IT戦略を積極的に推進し、業務効率化、顧客との関係強化、新規ビジネスモデル創出などを実現していくことが重要です。

特に、AWSなどのクラウドサービス、そしてサーバーレス技術の活用は、開発期間短縮、運用コスト削減、スケーラビリティ向上などのメリットをもたらし、化学製品卸売業におけるIT戦略を強力にサポートします。

本稿が、化学製品卸売企業の皆様のIT戦略推進の一助となれば幸いです。

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