AWSコンテナサービス最新動向から考える安全なアプリケーションデリバリー 2025年版

AWSコンテナサービス最新動向から考える安全なアプリケーションデリバリー 2025年版

エンジニアブログ
最終更新日:2025年08月26日公開日:2025年08月16日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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アプリケーションのリリースは速さと安全性の綱引きになりがちですが、2024〜2025年にかけてAWSの「Amazon ECS」「Application Load Balancer」「AWS AppConfig」まわりは大きく進化しました。

とくにECSが「ネイティブなBlue/Greenデプロイ」を実装したことで、CodeDeploy前提だった時代よりも設計の自由度が増し、オブザーバビリティや自動ロールバックの組み立て方も変わっています。本稿では最新ドキュメントに基づき、段階的リリースとロールバック、そしてセキュアな供給のための構成を、実運用で使える粒度で整理します。

「安全なデリバリー」とは、障害ゼロを目指す幻想ではなく、失敗時の影響半径を小さく保ち、検知からロールバックまでの所要時間を短くできている状態だと考えられます。

その観点で2025年のAWS環境を見ると、「ECSネイティブBlue/Green」、「ALBの重み付きルーティング」、「AppConfigの機能フラグ」、そして「CloudWatchと連携したECSの自動ロールバック」という4つの要素が中核になります。これらの技術を組み合わせることで、従来よりも安全かつ迅速なリリースサイクルを実現することが可能です。

いま押さえるべきアップデートと前提

Amazon ECSに組み込まれたBlue/Greenデプロイ機能により、ECSサービス定義の中で検証環境(Green)と本番環境(Blue)を並走させ、十分な確認後にトラフィックを切り替えるプロセスがシンプルに実現できます。 公式のワークフロー解説を読むと、準備、テストトラフィックの投入、「ベイク時間」(検証のために一定時間待つ運用上の猶予)、そして本番トラフィックの切り替えという段取りが明確に示されています。

Application Load Balancer(ALB)側では、リスナールールのforwardアクションで複数のターゲットグループにトラフィックの重みを割り当てられます。 さらに、「ターゲットグループスティッキネス」機能を使えば、ユーザーのセッション中は同一のターゲットグループにリクエストを送り続けることができるため、段階的な移行中でもユーザー体験の一貫性を保つことが可能です。

段階的な機能公開の露出制御には、AWS AppConfigの「機能フラグ」を利用すると、デプロイと機能リリースを分離でき、設計がきれいになります。 ECSやEKSでは、「AppConfig Agent」を「サイドカー」(補助プロセスとして同一タスク内に同居させる方式)で動作させ、アプリケーションはローカルのHTTPエンドポイントから最新の設定を安全に取得できます。

AWSの公式情報では、ECSのBlue/Greenデプロイは「より安全で一貫性のあるリリースを可能にする」ものとして説明されており、これまで運用で作り込む必要があった切替やロールバックの仕組みの多くをサービス側に委任できるようになります。

戦略としての段階的リリース

段階的リリースは、「トラフィックを動かす設計」と「機能の露出を制御する設計」を掛け合わせることで、失敗を検知した際のロールバック戦略を多層化できます。例えば、ALBの重み付きルーティングを用いてトラフィックを10%から25%、50%、最終的に100%へと段階的に移行させつつ、同時にAppConfigの機能フラグで対象ユーザーを地域や特定の属性に基づいて徐々に拡大していく、という二軸での柔軟なリリース設計が現実的です。

段階的な移行を設計する上での主要な狙いは、以下の3点に集約されます。

  • トラフィックの移行は、影響範囲を限定しながら段階的に進めるべきである
  • 機能の公開は、機能フラグを用いてデプロイのタイミングとは独立して制御するべきである
  • 障害の検知とロールバックの判断は、人手に頼らず自動化された仕組みに任せるべきである

ロールバックを自動化する仕組み

障害検知の第一段階は、ECSの「デプロイサーキットブレーカー」が担います。 これは、デプロイされた新しいタスクが安定した定常状態へ到達できない場合にデプロイの失敗を自動的に宣言し、ロールバックをトリガーする機能です。 第二段階としては、CloudWatchアラームとの連携による「デプロイアラーム」があります。

これにより、HTTP 500系のエラー率、CPUやメモリの使用率、SQSキューの遅延といった、ビジネスに直接影響するメトリクスを監視し、異常を検知した場合に自動でロールバックを実行させることが可能です。 これらの仕組みは併用でき、どちらかが失敗を検知した時点で即座に安全なバージョンへの巻き戻しを開始できます。

運用の際につまずきやすい点として、以下の事項を事前に把握しておくことが重要です。

  • ベイク時間中も、デプロイに関連するCloudWatchアラームは継続して監視対象である
  • デプロイを開始した時点で関連アラームがすでに発火状態(ALARM)の場合、そのデプロイにおけるアラーム監視は無効化される
  • デプロイアラームは、ECSの「ローリング更新」デプロイコントローラーで利用可能である

可観測性をSLOに結びつける

「計測できない品質は守れない」という原則に基づき、「SLO」(Service Level Objective:サービスレベル目標)を設計の初期段階から織り込むことが不可欠です。

AWSでは、「CloudWatch Application Signals」を有効化するだけで、アプリケーションの呼び出し数、レイテンシ、エラー率といった重要な指標をアプリケーション中心のビューで即座に可視化できます。 これにより、サービスの健全性を継続的に監視し、SLOの達成度を定量的に評価することが可能になります。

Kubernetes環境が前提であれば、Amazon Managed Service for Prometheusを中核に据え、指標に基づいたプログレッシブデリバリーを構成することもできます。特にEKSでより高度な段階的リリース制御が求められる場合は、Argo Rolloutsのカナリー機能も有効な選択肢となります。

セキュリティとリリースの両立

脆弱性対策は、リリースパイプラインの初期段階に組み込むべきです。Amazon ECRの「拡張スキャン」(Amazon Inspectorとの連携機能)を有効化すると、OSのパッケージだけでなく、JavaやPythonといったプログラミング言語のパッケージに含まれる既知の脆弱性も検出できます。 検出された脆弱性はECRとInspectorの両方で追跡・管理が可能です。

パイプラインにセキュリティゲートを設け、クリティカルな脆弱性が発見された場合はリリースを自動的にブロックする設計にすることで、より安全なデリバリーを実現できます。

サービス別の使い分けと全体設計

同じ「段階的リリース」という目標でも、採用する方式によって設計の重点は異なります。プロダクトの特性や運用負荷に応じて最適な方式を選定できるよう、主要なデリバリー戦略とその構成要素を以下の表にまとめました。

この表は、デリバリー戦略を「トラフィック制御」「露出制御」「判定・ロールバック」の三つの視点で整理し、それぞれの方式がどのようなサービスやユースケースに適しているかを示したものです。これにより、プロジェクトの初期段階で適切な技術選定を行うための目安を提供します。

表 デリバリー戦略と主な適用先の対応

方式

主な適用サービス

代表的な構成要素

補足

ECSネイティブBlue/Green

Amazon ECS

ECSのBlue/Greenワークフロー、テスト/本番ターゲットグループ、ライフサイクルフック

CodeDeployに依存せずECSサービス定義の中で完結するため、構成がシンプルになりやすい。

ローリング更新+重み付きルーティング

Amazon ECS

ALBのforwardアクション(重み付き)ターゲットグループスティッキネス

線形移行やカナリーリリースに向いている。セッションの一貫性はスティッキネスで担保可能。

機能フラグによる露出制御

ECS/EKS共通

AppConfigのAgentサイドカー

デプロイと機能リリースを分離し、ユーザー属性に基づいた段階的な公開が容易になる。

現場の実装メモ

実装時に注意すべき、あるいは間違いやすい点を、短い説明とともに以下にまとめます。

これらの考慮事項は、ALBのアクション仕様、スティッキネス機能の解説、AppConfig Agentの利用法、そしてデプロイアラームの具体的な挙動に関する公式ドキュメントに基づいています。

  • ALBのトラフィックの重みは0から999の整数で指定する。最初は小さな値から始め、段階的に引き上げていく運用が安定である
  • ユーザー体験の一貫性が重要な場合は、ターゲットグループスティッキネスを有効にする。セッション維持期間はビジネス要件から逆算して設定するべきである
  • AppConfigの機能フラグは、使用後に無効化または削除する棚卸しのプロセスをルール化し、使われなくなった「死んだフラグ」がコードベースに残存しないようにするべきである
  • ECSのデプロイアラームが使用するベイク時間はECSによって自動計算されるため、CloudFormationなどのタイムアウト設定には十分な余裕を持たせるべきである

CodeDeployからの移行をどう進めるか

既存のリリースプロセスがCodeDeployを主軸に構築されている場合でも、ECSネイティブのBlue/Greenデプロイへ段階的に移行することが可能です。まずは公式ブログの発表記事開発者ガイドを参考に、テスト用のリスナーや別のロードバランサーを使って新しいBlue/Greenデプロイ環境を構築し、動作を十分に検証した上で本番経路へ切り替えるという手順が、安全かつ現実的なアプローチです。

まとめ

リリースのスピードと安全性を両立させる鍵は、「トラフィックの段階的な移行」と「機能露出の制御」という二つの関心事を分離し、障害の検知からロールバックまでの一連のプロセスを可能な限り自動化することにあります。

2025年現在、ECSのネイティブBlue/Greenデプロイを中心に、ALBの重み付きフォワードとターゲットグループスティッキネス、AppConfigの機能フラグ、そしてECSのサーキットブレーカーとデプロイアラームを組み合わせるアプローチが、実装の複雑さと安全性の観点から最もバランスの取れた構成の一つと言えるでしょう。

最後に、ECR拡張スキャンによる脆弱性管理とCloudWatch Application SignalsによるSLO監視を初期設計に組み込むことで、品質とセキュリティを開発サイクルの定常的な活動として定着させやすくなります。

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