AWS移行のベストプラクティス 2025年版:3フェーズアプローチ(Assess/Mobilize/Migrate & Modernize)の最新動向と実践ガイド

AWS移行のベストプラクティス 2025年版:3フェーズアプローチ(Assess/Mobilize/Migrate & Modernize)の最新動向と実践ガイド

最終更新日:2025年09月16日公開日:2025年09月02日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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クラウド移行プロジェクトが本格化する中、AWSが提唱する「Assess」「Mobilize」「Migrate & Modernize」の3フェーズアプローチは、多くの企業で標準的な移行方法論として定着してきました。しかし、2024年から2025年にかけて、移行支援ツールやサービスに大きなアップデートがありました。特に「AWS Landing Zone」から「Control Tower」への完全移行、「Migration Evaluator」を中心とした新たなTCO評価体系、そしてVMware Cloud on AWSの提供体制変更など、移行プロジェクトの前提となる要素に重要な変化が生じています。

本記事では、AWSの最新の移行ガイドラインWell-Architected Migration Lensに基づき、2025年時点での最新のベストプラクティスと、各フェーズで活用すべき最新ツール・サービスについて、実践的な視点から解説します。

AWS移行の3フェーズアプローチ:2025年の最新状況

クラウド移行を成功に導くためには、体系的なアプローチが不可欠です。AWSが提唱する3フェーズアプローチは、単なる技術的な移行手順ではなく、組織変革とビジネス価値創出を含む包括的なフレームワークとして進化を続けています。

特に注目すべきは、AWS Migration Acceleration Program(MAP)が3フェーズ全体を通貫してサポートする体制が確立されたことです。MAPでは、移行の規模やワークロード特性に応じて、「MAP for Windows」や「MAP for Mainframe」といった専門的な支援も提供されるようになりました。これにより、従来は個別に検討していた移行施策を、統合的なプログラムとして推進できるようになっています。

Assess(評価)フェーズ:移行戦略の最新トレンド

7R戦略の実践的な選択基準

AWSの規範ガイダンスでは、移行戦略として「7R」と呼ばれる7つのパターンを定義しています。2025年時点での重要な変更点として、大規模移行では「Rehost」「Relocate」「Replatform」を初期フェーズの主軸とし、「Refactor」は移行後に段階的に実施するアプローチが明確に推奨されるようになりました。

7Rの各戦略における最新の位置づけは以下の通りです。

  • Retire:使用頻度が低く、ビジネス価値の低いシステムを廃止
  • Retain:規制要件や技術的制約により、当面はオンプレミスで維持
  • Rehost:リフト&シフトによる迅速な移行を実現
  • Replatform:OSやミドルウェアを最新化しながら移行
  • Repurchase:SaaSやマネージドサービスへの切り替え
  • Refactor:クラウドネイティブアーキテクチャへの再設計
  • Relocate:VMwareワークロードをそのまま移行

特に「Relocate」戦略については重要な注意点があります。VMware Cloud on AWSは2024年4月30日以降、AWSおよびチャネルパートナー経由での再販が停止され、Broadcom経由での提供に変更されました。技術的にはRelocate戦略は引き続き有効ですが、調達プロセスとサポート体制の変更を移行計画に反映する必要があります。

TCO評価ツールの2本柱体制

移行のビジネスケース構築において、TCO(総保有コスト)評価は最も重要な要素の一つです。AWSの公式ホワイトペーパーによると、現在のTCO評価は以下の2つのツールを中心に実施することが推奨されています。

表1:AWS TCO評価ツールの使い分け

ツール名

主な用途

対象フェーズ

主要機能

AWS Pricing Calculator

将来構成の見積もりとTCOモデル化

設計段階

サービス別料金計算、TCO比較レポート生成

Migration Evaluator

現状資産の分析とビジネスケース作成

評価段階

自動ディスカバリー、Quick Insights、移行シナリオ分析

AWS Pricing Calculatorは、移行後のAWS環境を詳細に設計し、料金を見積もるために使用します。一方、Migration Evaluatorは、既存環境のデータを収集・分析し、データドリブンなビジネスケースを構築するツールです。従来の独立した「TCO Calculator」から、この2本柱体制への移行により、より精緻で実践的なコスト評価が可能になりました。

移行準備状況の包括的評価

組織の移行準備状況を評価する際は、AWS Cloud Adoption Framework(CAF)の6つのパースペクティブ(ビジネス、人材、ガバナンス、プラットフォーム、セキュリティ、オペレーション)を活用します。

Migration Readiness Assessment(MRA)の実施プロセスでは、各パースペクティブについて現状と理想状態のギャップを分析し、移行に向けた具体的なアクションプランを策定します。2025年現在、MRAはオンラインツールとワークショップ形式の両方で提供され、組織の規模や成熟度に応じて選択できるようになっています。

Mobilize(移行準備)フェーズ:基盤構築の新スタンダード

Control Towerによるランディングゾーン構築

移行準備フェーズにおける最も重要な変更点は、マルチアカウント基盤の構築方法です。AWS Control Towerが、エンタープライズ向けランディングゾーンの標準ソリューションとして確立されました。

従来のAWS Landing Zoneソリューションはアクティブな開発が停止され、既存ユーザーはControl Towerへの移行が推奨されています。Control Towerは、Account Factory、ガードレール(予防的・検出的統制)、ダッシュボードといった機能を統合的に提供し、セキュアで拡張可能なマルチアカウント環境を自動構築します。

規制業界や高度なコンプライアンス要件を持つ組織向けには、Landing Zone Accelerator on AWS(LZA)が選択肢として用意されています。LZAは、Control Towerと連携しながら、中央集約型ログ管理、暗号化の強制、監査証跡の自動化など、より厳格なガバナンス機能を提供します。

https://docs.aws.amazon.com/solutions/latest/landing-zone-accelerator-on-aws/centralized-logging.html
https://docs.aws.amazon.com/solutions/latest/landing-zone-accelerator-on-aws/centralized-logging.html

Migration Hubによる移行計画の自動化

AWS Migration Hubは、単なる移行状況の追跡ツールから、移行全体をオーケストレーションする統合プラットフォームへと進化しました。特に注目すべきは以下の3つの機能です。

Migration Hub Strategy Recommendationsは、アプリケーションの特性を分析し、7R戦略の中から最適な移行パターンを自動的に推奨します。コード解析、依存関係マッピング、ビジネス優先度などを総合的に評価し、データドリブンな移行戦略を策定できます。

Migration Hub Orchestratorは、移行タスクのワークフロー自動化を実現します。事前定義されたテンプレートを使用することで、移行手順の標準化と自動実行が可能になり、ヒューマンエラーのリスクを大幅に削減できます。

移行チームの組織化とスキル開発

Mobilizeフェーズでは、Cloud Center of Excellence(CCoE)の設立と、移行チームのスキル開発が重要な要素となります。AWSでは、役割別・技術別の豊富なトレーニングコンテンツを提供しており、認定資格プログラムと組み合わせることで、体系的なスキル開発が可能です。

パイロット移行の実施も、この段階での重要なアクティビティです。複雑度の低いアプリケーションから始めて、段階的に難易度を上げていくことで、チームの経験値を蓄積しながら、移行プロセスの最適化を図ることができます。

Migrate & Modernize(移行実行&モダナイゼーション)フェーズ:最新ツールの活用

サーバ移行の新標準:Application Migration Service

サーバ移行において、AWS Application Migration Service(MGN)が第一選択として確立されました。MGNは、物理サーバ、仮想サーバ、他クラウドからのリフト&シフト移行を自動化し、継続的なデータレプリケーションによってカットオーバー時のダウンタイムを最小限に抑えます。

MGNのドキュメントによると、エージェントベースのブロックレベルレプリケーションにより、OSやアプリケーションの変更なしに移行が可能です。テスト環境での検証、本番カットオーバー、ロールバック手順まで、移行ライフサイクル全体をカバーする包括的なソリューションとなっています。

従来のServer Migration Service(SMS)と比較して、MGNは以下の点で優位性があります。

  • レプリケーション速度の向上とネットワーク帯域の効率的な利用
  • カットオーバー時間の短縮(分単位でのカットオーバーが可能)
  • 移行後の自動的なライセンス最適化とコスト削減

データベース移行の統合アプローチ

データベース移行では、AWS Database Migration Service(DMS)Schema Conversion Tool(SCT)の組み合わせが標準的なアプローチとなっています。

DMSの最新機能として、DMS Fleet AdvisorとDMS Schema Conversionが統合され、移行前の評価から実行まで一貫したワークフローで実施できるようになりました。特に異種データベース間の移行(例:OracleからAurora PostgreSQL)において、スキーマ変換、データ型マッピング、ストアドプロシージャの変換などを自動化できます。

継続的なデータレプリケーション機能により、移行期間中もソースデータベースを稼働させたまま、段階的な移行が可能です。これにより、ビジネスへの影響を最小限に抑えながら、確実な移行を実現できます。

データ転送の最適な選択肢

大容量データの転送には、転送量、ネットワーク帯域、時間的制約に応じて最適なサービスを選択する必要があります。

AWS DataSyncは、オンプレミスストレージからS3、EFS、FSxへのオンライン転送を自動化します。スケジューリング、帯域制限、データ整合性の検証機能により、確実なデータ転送を実現します。

AWS Transfer Familyは、既存のファイル転送ワークフロー(SFTP、FTPS、FTP)を変更することなく、S3やEFSと連携できます。レガシーシステムとの互換性を保ちながら、クラウドストレージの利点を活用できる点が特徴です。

ペタバイト規模のデータ転送には、AWS Snow Family(Snowcone、Snowball、Snowmobile)によるオフライン転送が有効です。物理デバイスを使用することで、ネットワーク制約を回避し、大容量データを効率的に移行できます。

モダナイゼーションを加速する新機能

移行後のモダナイゼーションを支援する新しいツールとして、以下の3つが特に注目されています。

Migration Hub Refactor Spacesは、モノリシックアプリケーションをマイクロサービスへ段階的に分解する際の、境界管理とトラフィックルーティングを自動化します。Strangler Figパターンの実装を簡素化し、リスクを抑えながらアーキテクチャの進化を実現できます。

AWS App2Containerは、既存のJavaおよび.NETアプリケーションを自動的にコンテナ化し、ECS、EKS、App Runnerへのデプロイを支援します。ドキュメントによると、アプリケーションの分析、Dockerfile生成、CI/CDパイプラインの構築まで、end-to-endの自動化が可能です。

メインフレームのモダナイゼーションには、AWS Mainframe Modernization(M2)が提供されています。COBOLやPL/Iで書かれたレガシーアプリケーションを、リホスト、リプラットフォーム、または自動リファクタリングによって、クラウドネイティブ環境へ移行できます。

引用:AWS Mainframe Modernization Documentation M2は、メインフレームアプリケーションの分析、移行、実行、運用を統合的にサポートし、移行リスクを最小化しながら、段階的なモダナイゼーションを可能にします。

移行成功のための実践的アドバイス

段階的アプローチの重要性

クラウド移行を成功させるためには、「完璧を求めすぎない」ことが重要です。まず動作することを優先し、その後で最適化とモダナイゼーションを進める段階的アプローチが、多くのプロジェクトで成功を収めています。

初期フェーズでは、Rehostによる迅速な移行でクラウドの即時的な利点(柔軟性、拡張性、災害復旧)を享受し、その後でコンテナ化、サーバーレス化、マイクロサービス化といったモダナイゼーションを段階的に実施することで、リスクを抑えながら価値を最大化できます。

コスト最適化の継続的な取り組み

移行後のコスト最適化は、一度きりの活動ではなく、継続的な改善プロセスとして位置づける必要があります。Reserved Instances、Savings Plans、Spot Instancesの活用、適切なインスタンスサイズの選択、不要リソースの削除など、定期的な見直しと最適化が重要です。

AWS Cost Explorer、AWS Budgets、AWS Cost Anomaly Detectionなどのツールを活用し、コスト状況を常に可視化・監視することで、予期しないコスト増加を防ぎ、継続的な最適化を実現できます。

セキュリティとコンプライアンスの統合

クラウド移行において、セキュリティは後付けではなく、設計段階から組み込むべき要素です。AWS Security Hubによる一元的なセキュリティ管理、AWS Configによるコンプライアンスチェック、AWS CloudTrailによる監査証跡の記録など、包括的なセキュリティ体制を構築することが不可欠です。

特に規制業界においては、データレジデンシー、暗号化要件、アクセス制御などの要件を事前に明確化し、適切なサービスと設定を選択する必要があります。

組織変革の並行推進

技術的な移行と並行して、組織文化の変革も推進する必要があります。DevOpsプラクティスの導入、アジャイル開発手法の採用、継続的な学習文化の醸成など、クラウドネイティブな働き方への転換が、移行の真の価値を引き出すカギとなります。

CCoEを中心とした知識共有、成功事例の横展開、失敗から学ぶ文化の構築など、組織全体でクラウドジャーニーを推進する体制づくりが重要です。

まとめ:2025年のAWS移行戦略

AWS移行のベストプラクティスは、技術の進化とともに常にアップデートされています。2025年時点での主要な変更点として、Control Towerによる標準的なランディングゾーン構築、Migration EvaluatorとPricing Calculatorを軸としたTCO評価、MGNによる効率的なサーバ移行、そしてMigration Hubの統合的な移行オーケストレーション機能が挙げられます。

VMware Cloud on AWSの提供体制変更のような外部要因の変化にも注意を払いながら、最新のツールとサービスを適切に組み合わせることで、より効率的で確実な移行を実現できます。

重要なのは、移行を単なる技術プロジェクトとして捉えるのではなく、ビジネス変革の機会として活用することです。AWS MAPのような包括的な支援プログラムを活用しながら、段階的かつ戦略的にクラウドジャーニーを推進することで、真のデジタルトランスフォーメーションを実現できるでしょう。

クラウド移行は終わりではなく始まりです。移行後も継続的な最適化とモダナイゼーションを推進し、クラウドの価値を最大限に引き出していくことが、これからの企業競争力の源泉となることは間違いありません。

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