AX市場への需要形成&提案戦略 - SIerが押さえるべき顧客価値創出の要点

AX市場への需要形成&提案戦略 - SIerが押さえるべき顧客価値創出の要点

最終更新日:2025年09月30日公開日:2025年09月30日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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本記事は、AX(RPA)市場でビジネスを行うSIer/コンサルティングファーム向けに、最新のAX市場の市況および私たちの考察を伝えることを目的としています。

PESTEL分析や5フォース分析といったフレームワークを用いて国内AX市場の構造を体系的に分析し、日本企業が直面する課題とソリューション活用の最前線について、実際の導入事例を交えながら詳細に考察していきます。

【はじめに】私たちから、Sier/コンサルティングファームに向けたメッセージ

私たちは、国内の労働力不足に伴う生産性向上は、2025年問題を筆頭としたクライアント支援企業が取り組まなければいけない急務だと捉えています。「人口不足」を嘆く前に、まずは生産性向上を行い、この問題の解消に少しでも貢献することが私たちには求められているのではないでしょうか。

多くのSIer企業とコンサルティングファームが市場参入の機会を模索

国内の「AI Transformation(AX)」市場が急拡大を続ける中、多くのSIer企業とコンサルティングファームが市場参入の機会を模索しています。

IDC Japanの予測によれば2024年の国内AIシステム市場規模は前年比56.5%増の1兆3,412億円に達し、2029年には約3倍の4兆1,873億円に拡大する見込みです。しかしながら、単に技術力を持っているだけでは顧客の信頼を獲得できません。

2024年の国内AIシステム市場は前年比56.6%増の1兆3412億円に達し、生成AIの普及によってAIアシスタントが急速に浸透した。今後はAIエージェントへの進化が加速し、2029年には市場規模が4兆1873億円に拡大すると予測されている。
2024年の国内AIシステム市場は前年比56.6%増の1兆3412億円に達し、生成AIの普及によってAIアシスタントが急速に浸透した。今後はAIエージェントへの進化が加速し、2029年には市場規模が4兆1873億円に拡大すると予測されている。

本記事では、AX市場における需要形成から見積もり提案に至るまでの戦略的アプローチについて、市場分析と実例を交えながら、SIer企業が知っておくべき実践的な知見をお伝えします。

国内AX市場の構造分析から読み解く参入機会

PESTEL分析による外部環境の評価

現在の日本のAX市場を取り巻く環境は、参入を検討する企業にとって極めて有利な状況にあります。まず政治面では、2023年に日本初のAIに特化した法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」が成立し、国家戦略としてAI活用が推進されています。

表 国内AX市場に影響を与える外部環境要因

要因カテゴリー

主な影響要素

市場への影響度

参入企業への示唆

Political(政治)

AI法制定・政府支援策

高(促進的)

補助金活用・政府案件参画機会

Economic(経済)

人手不足・生産性課題

極めて高

業務効率化ソリューションニーズ

Social(社会)

AI人材不足(64.6%が課題)

高(阻害的)

教育・伴走型サービスの需要

Technological(技術)

LLM・生成AI急速進化

極めて高

技術キャッチアップの必要性

Environmental(環境)

カーボンニュートラル要請

中程度

グリーンAIソリューション需要

Legal(法制度)

ガイドライン整備進展

中(促進的)

ガバナンス支援サービス機会

経済面では慢性的な人手不足と生産性停滞が企業のAI導入を後押ししており、社会面では実態調査で企業の64.6%が「AIリテラシーやスキル不足」を課題に挙げるなど、導入支援ニーズが顕在化しています。技術面ではOpenAIとNTTデータの戦略提携に代表されるように、最先端技術へのアクセスが民主化されつつあり、参入障壁が低下している状況です。

生成AI活用における企業課題は、導入前は「リテラシー不足・効果が不明」、導入後は「データ品質・システム乱立・ガバナンス整備の遅れ」が中心です。
生成AI活用における企業課題は、導入前は「リテラシー不足・効果が不明」、導入後は「データ品質・システム乱立・ガバナンス整備の遅れ」が中心です。
株式会社NTTデータグループは2025年5月1日から、OPEN AI社とグローバルを対象とした戦略的提携を開始
株式会社NTTデータグループは2025年5月1日から、OPEN AI社とグローバルを対象とした戦略的提携を開始

ファイブフォース的観点で見る競争構造

AX市場の競争構造を分析すると、新規参入企業にとって重要な示唆が得られます。

新規参入の脅威については、オープンソース化やクラウドAIサービスの普及により参入ハードルは下がっていますが、エンタープライズ向けの信頼性確保や大規模開発体制構築には実績と資本が必要であり、参入障壁は中程度といえます。既存競合の強さは熾烈で、大手ITベンダー・SIer、コンサルファーム、AIスタートアップ、クラウドプラットフォーマーまで多岐にわたるプレイヤーが顧客獲得を競っています。

代替製品の脅威としては、RPAやERPへのAI機能標準搭載などが存在しますが、本格的なAI変革には専門的知見が不可欠であり、完全な代替は困難です。買い手の交渉力は増加傾向にあり、特に大企業は複数ベンダーへの相見積もりや実証プロジェクトでの成果比較を行う傾向が強まっています

売り手(技術供給元)の交渉力も強く、OpenAIやNVIDIAなどコア技術サプライヤーの動向が下流のAX事業に大きく影響します。

顧客理解に基づく需要形成のアプローチ

顧客ニーズの多層的理解

AX導入を検討する企業の根本的なニーズを理解することが、効果的な需要形成の第一歩となります。

顧客企業の主要なニーズは以下のように整理できます。

  • 業務効率化と生産性向上への期待が最も強く、三菱UFJ銀行では生成AI導入により月22万時間相当の業務削減を目指すプロジェクトを開始している
  • 高度な意思決定支援ニーズとして、膨大なデータから洞察を得たいという要望が高まっている
  • 新規ビジネス・サービス創出への期待も大きく、AIを製品・サービスに組み込み差別化を図りたいと考えている
  • 人材不足・技能継承問題への対応として、熟練者の引退に伴うノウハウ継承をAIで補完したいニーズが顕在化
  • サービスレベル向上と顧客体験改善のため、AI導入による応答迅速化やパーソナライズ化への期待が高まっている
三菱UFJ銀行が生成AI「ChatGPT」の導入により、業務プロセスを革新し、月22万時間分の労働時間が削減可能との試算を発表
三菱UFJ銀行が生成AI「ChatGPT」の導入により、業務プロセスを革新し、月22万時間分の労働時間が削減可能との試算を発表

カスタマージャーニーに沿った需要形成施策

顧客企業がAX導入を検討し実現に至るまでのプロセスを理解し、各段階で適切な需要形成施策を展開することが重要です。

認知・興味喚起段階では、経営課題としてDXが叫ばれる中、書籍・セミナー・他社事例ニュースなどでAIトランスフォーメーションの可能性を知ってもらう必要があります。ここでは、セブン-イレブンのAI発注システムによる発注時間最大40%削減といった具体的な成功事例の発信が効果的です。

2020年1月から 一部店舗を対象にスタートした試みでは、発注時間を最大で 4割削減することに成功
2020年1月から 一部店舗を対象にスタートした試みでは、発注時間を最大で 4割削減することに成功

情報収集・比較検討段階では、自社での活用アイデアを模索し始める顧客に対し、ベンダー各社のWebサイトやホワイトペーパー、セミナーなどで具体的な価値提案を行います。この段階では、業界特化型のソリューション提案や、小規模PoCの実施提案が有効です。

評価・意思決定段階では、PoCやトライアル導入を経て有効性を評価する顧客に対し、ROIの明確化と経営層向けのレポート作成支援が重要となります。PwCの調査では生成AIの効果が「期待を大きく上回った」と感じる企業は日本ではわずか9%という現状があり、期待値調整と着実な成果創出が鍵となります。

生成AI活用の効果について、米国では回答企業の33%が「期待を大きく上回っている」と答えたのに対し、日本で同じ回答をした企業はわずか9%にとどまっています。
生成AI活用の効果について、米国では回答企業の33%が「期待を大きく上回っている」と答えたのに対し、日本で同じ回答をした企業はわずか9%にとどまっています。

DMU(意思決定単位)の構造理解と対応

AX導入の意思決定には複数のステークホルダーが関与するため、それぞれの役割と関心事を理解した上での需要形成活動が必要です。

主要なDMU構成要素として以下が挙げられます。

  • 発案者・プロジェクトオーナー(CDO、DX推進室長など)が旗振り役となり、ベンダーとの最初の接点となる
  • 経営層のスポンサー(CEO、CTO、事業本部長など)が最終的な予算承認を行うため、経営視点での価値訴求が不可欠である
  • ユーザー部門代表は具体的要件の提供や現場調整を担い、実務面での納得感が定着の鍵となる
  • IT部門はシステム整合性やセキュリティ管理の観点から技術評価を行い、標準準拠やポリシー適合をチェックする
  • 調達・購買部門は外部発注プロセスを管轄し、コストや契約リスクに敏感である

市場規模とセグメント別の攻略戦略

急成長する市場規模と将来展望

国内AX市場は爆発的な成長を続けています。IDCの予測では、2024年の市場規模1兆3,412億円から、2029年には4兆1,873億円まで拡大し、年平均成長率(CAGR)は約25.6%という驚異的な数値を示しています。

2024年の国内AIシステム市場は前年比56.6%増の1兆3412億円に達し、生成AIの普及によってAIアシスタントが急速に浸透した。今後はAIエージェントへの進化が加速し、2029年には市場規模が4兆1873億円に拡大すると予測されている。
2024年の国内AIシステム市場は前年比56.6%増の1兆3412億円に達し、生成AIの普及によってAIアシスタントが急速に浸透した。今後はAIエージェントへの進化が加速し、2029年には市場規模が4兆1873億円に拡大すると予測されている。

この成長を牽引しているのは生成AIブームによる需要の高まりで、生成系AIアシスタントの普及や企業内データを活用した業務最適化の導入が進んでいます。一方で、市場拡大に伴い価格競争の兆候も現れており、ソリューションのコモディティ化が進む分野では利益率の低下リスクも存在します。

SMB市場とエンタープライズ市場の特性理解

SMB市場の現在地と攻略ポイント

結論、私たちの経験からSMB(中堅)企業市場では、AI導入への関心は高いものの、予算制約と人材不足が大きな障壁となっています。

そのため、コスト効率の良いサーバーレス技術やDify。クラウド型AIサービスやSaaS型ソリューションへの需要が高く、月額数万円から数十万円の価格帯でのサービス提供が求められます。また、「自社AIアプリ開発は行うので技術コーチング・レクチャーだけ依頼したい」といった相談事例が、過去多数あります。

よって、SMB向けの需要形成では以下のアプローチが有効です。

  • 導入ハードルを下げる価格を下げた支援(アドバイザリー、コーチング支援のみなど)
  • 業界特化型のテンプレートソリューションによる短期導入の実現
  • 地域のSIパートナーや商工会議所との連携による顧客接点の確保

経済産業省「中小企業向けAI導入ガイドブック」

経済産業省は、国内の中小企業に向けたAI導入ガイドブックを公開しており、国内の中小企業のビジネスの実態に沿った導入プロセスを紹介しています。SMB企業への提案活動の際に、ぜひ参考にしてみてください。

「中小企業向けAI導入ガイドブック」は、AI導入に悩む中小企業が自社の状況に応じて適切な導入方法を判断し、自社主導でAI活用を進められるよう、チェックリストやワークシートを通じて具体的なステップを学べる実践的な資料です
「中小企業向けAI導入ガイドブック」は、AI導入に悩む中小企業が自社の状況に応じて適切な導入方法を判断し、自社主導でAI活用を進められるよう、チェックリストやワークシートを通じて具体的なステップを学べる実践的な資料です

エンタープライズ市場の特徴と対応策

大企業市場では、包括的な変革支援と高度なカスタマイゼーションへの需要が中心です。数千万円から数億円規模の大型案件が多く、複数部門を巻き込んだ全社展開が期待されます。

エンタープライズ向けの需要形成においては以下が重要です。

  • 経営層への直接的なアプローチと戦略的価値の訴求
  • グローバルベストプラクティスの提示と業界リーダーとしてのポジショニング支援
  • 包括的なチェンジマネジメント支援と組織変革の伴走

Gartnerの記事でも挙げられているように、エンタープライズ企業は依然としてERP等のパッケージに対するカスタマイズ要望が強く、AXにおいても同様に柔軟性が求められます。こういった観点においては、DifyなどのAIオーケーストレーションツールは非常に需要が高いと捉えることができます。

Gartner(日本発表)は、国内組織調査で「ERPのカスタマイズ率を20%未満に抑えている企業は33%に過ぎず、27%は“過半数の機能”をカスタマイズ」と報告。過度なカスタマイズは運用コスト増やアップグレード負担を招くと警鐘。
Gartner(日本発表)は、国内組織調査で「ERPのカスタマイズ率を20%未満に抑えている企業は33%に過ぎず、27%は“過半数の機能”をカスタマイズ」と報告。過度なカスタマイズは運用コスト増やアップグレード負担を招くと警鐘。

最新技術トレンドを活用した差別化提案

LLMと生成AI技術の進化と活用

2023年以降、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が汎用人工知能の可能性を示し、2024年にはLLMに各種データやツールを連携させタスクを自律実行する「AIエージェント」が登場しています。

表 主要な生成AIモデルと企業向け活用領域

モデル/サービス

提供元

主な活用領域

導入企業例

GPT-5/Azure OpenAI

Microsoft/OpenAI

文書作成・コード生成

三菱UFJ銀行、NTTデータ

Vertex AI (PaLM)

Google

データ分析・予測

セブン-イレブン

Amazon Bedrock

AWS

マルチモデル統合

複数の中堅企業

Claude

Anthropic

高度な推論・分析

金融・コンサル企業

国産LLM

NEC、富士通等

日本語特化・セキュア環境

官公庁・大手製造業

これらの技術動向を踏まえた差別化提案として、単なるモデル導入ではなく、顧客の業務プロセスに最適化された「AIエージェント」の構築や、複数モデルを組み合わせたハイブリッド型ソリューションの提供が効果的です。

業界別ソリューションの深化

各業界で蓄積された成功パターンを基に、より専門性の高いソリューション提案が可能になっています。

製造業ではPreferred NetworksとトヨタやファナックとのAI共同研究により、品質検査AIや予知保全システムが実用化段階に入っています。金融業では、三菱UFJ銀行の生成AI活用による月22万時間相当の業務削減計画のような大規模導入事例が生まれています。小売業では、セブン-イレブンのAI発注システムが全国2万1千店舗への展開を開始し、発注時間を最大40%削減する成果を上げています。

Preferred Networks、トヨタ自動車から約105億円の資金調達 モビリティ分野でAI技術の共同研究・開発を加速
Preferred Networks、トヨタ自動車から約105億円の資金調達 モビリティ分野でAI技術の共同研究・開発を加速

見積もり提案における価値訴求の要諦

ROI明確化のフレームワーク

見積もり提案において最も重要なことは、投資対効果(ROI)を定量的に示すことです。日本企業では「自社でAIを活用して具体的なメリット・効果が分からない」ことが導入前の大きな課題(未導入企業の47.1%が指摘)となっているため、明確な価値算定が不可欠です。

導入企業は「データの質・量不足」「システム乱立の懸念」を強く認識し、 未導入企業は「生成AIの効果・メリットが不明」と感じている。
導入企業は「データの質・量不足」「システム乱立の懸念」を強く認識し、 未導入企業は「生成AIの効果・メリットが不明」と感じている。

ROI算定における基本フレームワークとして以下の要素を組み込みます。

  • 直接的コスト削減効果(人件費削減、作業時間短縮、エラー率低下)
  • 間接的価値創出(売上増加、顧客満足度向上、イノベーション創出)
  • リスク低減効果(コンプライアンス強化、品質向上、事故防止)
  • 戦略的価値(競争優位確立、市場シェア拡大、ブランド価値向上)

段階的導入アプローチの設計

多くの日本企業が「PoCの壁」に直面している現状を踏まえ、段階的な導入アプローチを見積もり提案に組み込むことが重要です。

フェーズ

概要

Quick Win創出(3-6ヶ月)

限定的な業務領域でのPoC実施により、短期間で具体的な成果を創出します。投資規模は数百万円から1千万円程度に抑え、経営層の信頼獲得と現場の成功体験創出を目指します。

本格展開準備(6-12ヶ月)

PoCで実証された効果を基に、データ基盤整備やガバナンス体制構築を進めます。この段階で全社展開に向けた標準化やスケーラビリティの検証を行います。

全社展開と継続改善(12ヶ月以降)

複数部門への水平展開と、MLOpsによる継続的な精度向上を実現します。この段階では、内製化支援や人材育成も含めた包括的な支援を提供します。

価格設定戦略と契約モデル

価格設定においては、顧客の予算制約と価値認識のバランスを取ることが重要です。

表 AX案件における主要な価格モデルと適用シーン

価格モデル

特徴

適用シーン

メリット/デメリット

プロジェクト型

一括請負契約

大規模導入案件

予算明確/柔軟性低い

サブスクリプション型

月額/年額課金

クラウドAIサービス

初期投資抑制/長期コスト

成果報酬型

KPI達成連動

効果重視案件

リスク共有/測定困難

ハイブリッド型

基本料+成果連動

中長期パートナーシップ

バランス良好/複雑な管理

近年は成果連動型の料金モデルへの関心が高まっており、例えば業務改善によるコスト削減額の一定割合を成功報酬とする提案も増えています。ただし、効果測定の基準設定と合意形成には十分な時間をかける必要があります。

競合環境を踏まえた差別化戦略

主要競合プレイヤーの特徴理解

国内AX市場には、大手SIer・ITベンダー、コンサルティングファーム、AIスタートアップ、クラウドプラットフォーマーという4つの主要プレイヤー群が存在します。

NTTデータは2023年にOpenAIとグローバル戦略提携を結び、最新の生成AIサービスをグローバル展開すると発表しました。アクセンチュアは2022年にデータ分析・AI開発のアルベルト社を約420億円で買収し、内製化能力を大幅に強化しています。

ALBERTはアクセンチュアの完全子会社となり、上場廃止となる見込み。アクセンチュアはデータサイエンティストの人材獲得を通じて、今後の成長を図る。
ALBERTはアクセンチュアの完全子会社となり、上場廃止となる見込み。アクセンチュアはデータサイエンティストの人材獲得を通じて、今後の成長を図る。

これらの動きから、技術力×実装力×業務知識の三位一体での差別化が市場での勝敗を分けることが明確になっています。

独自の価値提案構築

競合環境において差別化を図るためには、自社の強みを明確にした上で、独自の価値提案を構築する必要があります。

効果的な差別化軸として以下が考えられます。

  • 業界特化型の深い専門知識とベストプラクティスの蓄積
  • エンドツーエンドの包括支援能力(戦略立案から運用まで)
  • 独自技術やIPの保有(特許取得済みアルゴリズム等)
  • パートナーエコシステムの充実度(技術連携、販売チャネル)
  • 人材育成・組織変革支援の実績とメソドロジー

需要形成から契約締結までの実践的プロセス(Ragate式、AX営業戦略)

AX市場における営業活動は、従来のIT製品販売とは根本的に異なる複雑性を持っています。日本企業の47.1%が「AIを活用して具体的なメリット・効果が分からない」と回答し、さらに64.6%が「AIリテラシーやスキル不足」を課題として挙げる現状において、顧客教育から価値実証、組織変革支援まで一貫した営業プロセスが不可欠です。

マーケティング:AI理解度別の需要喚起戦略

AX市場のマーケティングでは、企業のAI成熟度による精緻なセグメンテーションが成功の鍵となります。

表 AI成熟度別マーケティングアプローチ

成熟度レベル

企業の特徴

主要コンテンツ

期待する行動

未認知層

AI活用の必要性を認識していない

業界変革レポート、競合動向分析

セミナー参加

関心層

AIに興味はあるが知識不足

基礎解説、セブン-イレブン等の成功事例

資料請求

検討層

PoC実施を検討中

ROI試算ツール、PoC設計ガイド

個別相談申込

実践層

一部導入済み、拡大検討

全社展開事例、ガバナンス指針

拡張提案要請

AI疑念解消コンテンツの戦略的展開

PwCの調査で生成AIの効果が「期待を大きく上回った」と感じる日本企業がわずか9%という現実を踏まえ、期待値調整と実現可能な価値の明確化に注力します。

具体的には、「AIは万能ではない」という前提から始め、具体的な業務課題に対する現実的な改善幅を示すコンテンツを制作します。例えば、三菱UFJ銀行の月22万時間削減計画のような大規模事例だけでなく、部門単位での小規模成功事例も積極的に発信します。

「インサイドセールス」PoC提案への最適な導線設計

AX案件特有のQLスコアリング基準

通常のBANTに加え、AX市場では以下の独自基準でリード評価を行います。

AX市場における基準

内容

データ準備度

活用可能なデータの質と量、データガバナンスの成熟度

技術対応力

社内のIT部門の規模、クラウド利用経験、過去のDXプロジェクト実績

経営関与度

トップのAIへの理解度、DX推進組織の有無

組織文化適合性

変革への柔軟性、失敗許容度、ボトムアップ文化の有無

PoCファネルの設計と管理

AX市場では、本格導入前のPoCが必須となるため、PoC専用のファネル管理が重要です。

PoC提案段階(インサイドセールス主導)では、3ヶ月以内に実施可能な小規模PoCを設計し、投資額300-500万円程度の予算枠で提案します。

PoC準備段階では、データ準備支援とKPI設定ワークショップを実施し、明確な成功基準を合意します。PoC実施段階(プリセールスエンジニアと協働)では、2週間ごとの進捗レビューを設定し、早期の課題発見と対処を行います。PoC評価段階では、経営層向けの成果報告会を設定し、本格導入への意思決定を促します。

フィールドセールス:経営層巻き込み型の大型商談推進

エグゼクティブエンゲージメント戦略

AX案件の成否は経営層のコミットメントに大きく依存するため、C-Level(企業内でCxOポジション)向けの特別なアプローチが必要です。

AIトランスフォーメーションビジョンセッションの実施により、単なる技術導入ではなく、企業変革のロードマップを共創します。業界トップ企業のAI戦略ベンチマークを提示し、競争優位性の観点から議論を展開します。

投資対効果の多面的提示

従来のコスト削減型ROIだけでなく、AX特有の価値を多角的に提示します。

表 AX投資効果の評価フレームワーク(提案時に有効)

価値カテゴリー

測定指標

期待効果レンジ

実現時期

直接的効率化

作業時間削減率

30-40%

6-12ヶ月

品質向上

エラー率低減、精度向上

50-80%改善

3-6ヶ月

イノベーション創出

新サービス売上貢献

売上の5-10%

12-24ヶ月

人材価値向上

従業員のAIスキル習得率

30%以上

12ヶ月

競争優位確立

市場シェア変化

2-5%向上

24ヶ月以降

カスタマーサクセス:PoCから本格展開への橋渡し

PoC成功の体系的支援プログラム

「PoCの壁」を突破するための専門的な支援体制を構築します。実際のPoC体制においては、週次でのテクニカルレビューと、隔週での業務担当者とのフィードバックセッションを実施します。特に、初期2週間での「Quick Win」創出に注力し、現場の期待感を醸成します。

そして、段階的拡張シナリオの提示により、PoC成果を基に、部門展開→事業部展開→全社展開という明確なロードマップを示します。各段階での投資規模と期待効果を可視化し、経営層の段階的な意思決定を支援します。

AI人材育成プログラムの並行実施

64.6%の企業が課題とするAI人材不足に対し、顧客企業の自走化を支援する教育プログラムを提供します。

基礎編では、ビジネスパーソン向けAIリテラシー研修(経営層・管理職必須)を実施し、実践編では、プロジェクトメンバー向けハンズオントレーニングを提供します。応用編では、社内AI推進リーダー認定プログラムを設け、組織内でのAI活用を推進できる人材を育成します。

まとめ

国内AX市場は今後も高成長が続くことが予想されますが、同時に競争も激化していきます。SIer企業が市場で成功を収めるためには、技術力だけでなく、顧客理解に基づく需要形成力と、価値を明確に示す提案力が不可欠です。

重要なことは、顧客企業のデジタル変革の真のパートナーとなることです。単なる技術提供者ではなく、ビジネス課題の解決から組織変革の支援まで、包括的な価値を提供できる存在となることが、持続的な競争優位の源泉となります。

市場環境は刻々と変化していますが、顧客価値創出という本質を見失わず、着実に実績を積み重ねていくことが、AX市場での成功への確実な道筋となるでしょう。今こそ、自社の強みを活かした独自の価値提案を構築し、積極的な市場参入を図るタイミングといえます。

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