なぜAWSのクラウド市場シェアは29%に低下したのか

最終更新日:2025年12月24日公開日:2025年12月23日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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2025年Q3のクラウドインフラ市場において、AWSのシェアが29%に低下しました。長年30%以上を維持してきたAWSにとって象徴的な出来事ですが、この数字だけで判断するのは早計です。市場全体の変化を読み解くと、興味深い構造変化が見えてきます。

なぜAWSのクラウド市場シェアは29%に低下したのか

2025年Q3のクラウドインフラ市場において、AWSのシェアが29%に低下したというニュースが業界で話題になりました。長年30%以上を維持してきたAWSにとって象徴的な出来事ですが、この数字だけを見て「AWSは衰退している」と結論づけるのは早計です。市場全体の変化を読み解くと、実は非常に興味深い構造変化が見えてきます。

市場全体が急成長している事実

まず押さえておくべきは、クラウドインフラ市場全体が依然として急成長しているという事実です。2025年Q3の市場規模は約840億ドルに達し、前年同期比で約22%の成長を記録しています。これは驚異的な成長率であり、クラウド市場が成熟期に入ったとは到底言えない状況です。

クラウド市場シェアの構成

AWSのシェアが「低下」したといっても、売上高自体は成長しています。問題は、市場全体の成長速度にAWSが追いついていないという点です。つまり、AWSが縮小しているのではなく、他のプレイヤーがさらに急速に成長しているということになります。特にMicrosoft AzureとGoogle Cloudの成長率はAWSを上回っており、市場シェアの再編が進んでいます。

AI需要がゲームチェンジャーに

AWSシェア低下の最大の要因として挙げられるのが、生成AI需要の爆発的な増加です。2023年のChatGPTの登場以降、企業のAI投資は加速度的に増加しており、この流れがクラウド市場の勢力図を大きく変えつつあります。

AI需要の成長

MicrosoftはOpenAIとの戦略的パートナーシップにより、Azure上でのAIサービス展開で先行しています。Azure OpenAI Serviceは、GPT-4やDALL-Eなどのモデルをエンタープライズ向けに提供しており、多くの企業がこれを目当てにAzureを選択するようになりました。Google Cloudも独自のGeminiモデルとVertex AIプラットフォームで追随しています。

AWSも対抗としてBedrock、SageMaker、独自開発のTrainiumチップなどを展開していますが、OpenAIのような圧倒的なブランド力を持つパートナーがいない点で苦戦しています。ただし、AWSの戦略は「特定のモデルに依存しない」マルチモデルアプローチであり、長期的にはこの柔軟性が評価される可能性もあります。

NeoCloudの台頭

クラウド市場に新たなプレイヤーが登場しています。CoreWeave、Lambda Labs、Together AIといった「NeoCloud」と呼ばれる新興クラウド事業者が、GPU特化型サービスで急成長しています。これらの企業は、NVIDIAの最新GPUを大量に調達し、AI/MLワークロードに特化したインフラを提供することで、従来のハイパースケーラーとは異なるポジションを確立しています。

特にCoreWeaveは、NVIDIAから直接投資を受けるなど注目を集めています。従来のクラウドでは調達に時間がかかるH100やBlackwellといった最新GPUを迅速に提供できる点が、AI開発企業から高く評価されています。NeoCloudsの台頭は、クラウド市場が「汎用的なインフラ」から「特化型サービス」へと多様化していることを示しています。

マルチクラウド戦略の普及

エンタープライズ企業のクラウド戦略も変化しています。かつては「オールインAWS」のような単一クラウド戦略が主流でしたが、現在では多くの企業が「用途に応じて最適なクラウドを選択」するマルチクラウド戦略へと移行しています。

マルチクラウド戦略

この背景には、ベンダーロックインの回避、各クラウドの強みの活用、冗長性の確保といった狙いがあります。たとえば、基幹システムはAWSで運用しつつ、AIワークロードはAzure、データ分析はGoogle Cloudというように使い分けるケースが増えています。また、KubernetesやTerraformといったマルチクラウド対応ツールの成熟により、複数クラウドの運用負荷も軽減されています。

CAPEX投資競争の激化

ハイパースケーラー各社のCAPEX(設備投資)も注目すべきポイントです。2025年度の設備投資額は、Microsoft、Amazon、Googleの3社合計で2,500億ドルを超える見込みです。この投資の大部分はAI対応データセンターの構築に充てられています。AWSも積極的な投資を続けていますが、MicrosoftのAI関連投資の増加ペースが特に顕著です。

まとめ

AWSのシェア低下は、単純に「AWSが劣っている」ということを意味するものではありません。その背景には、AI需要の爆発的増加とAzureの先行、NeoCloudという新カテゴリの出現、マルチクラウド戦略の普及、設備投資競争の激化という構造的な変化があります。シェアの数字だけで判断するのではなく、市場全体のダイナミズムを捉えることが重要です。AWSは依然として最大のプレイヤーであり、エンタープライズ向けの豊富なサービスラインナップと運用実績において強みを持っています。クラウド市場は「ゼロサムゲーム」ではなく、全体のパイが拡大し続ける中での競争であることを忘れてはなりません。

参考リンク

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