なぜTypeScriptはPythonを抜いて1位になったのか?

なぜTypeScriptはPythonを抜いて1位になったのか?

最終更新日:2025年12月07日公開日:2025年12月07日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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GitHubが発表したOctoverse 2025レポートで、TypeScriptがPythonを抜いてGitHubで最も使用される言語の1位に躍り出ました。これは10年以上で最大の言語シフトとされています。 「え、AIブームでPythonが伸びているんじゃないの?」と思った方も多いでしょう。私も最初はそう思いました。しかし、データを詳しく見ていくと、AIエージェント時代における言語選択の本質が見えてきます。

数字で見る言語シフトの実態

2025年8月時点で、TypeScriptは約106万4000人のコントリビューター増加を記録し、前年比66.63%の成長を達成しました。一方、Pythonも約85万人のコントリビューター増加(前年比48.78%)と健闘していますが、TypeScriptの伸びには及びませんでした。

興味深いのは、TypeScriptとPythonを合わせると520万人以上のコントリビューター、つまり全アクティブGitHub開発者の約3%を占めるという点です。この2言語への集中が加速しています。

新規リポジトリの言語分布

過去12ヶ月で新規作成されたリポジトリの約80%は、わずか6つの言語で占められています。

  • Python: 926万リポジトリ(前年比+53.41%)
  • JavaScript: 934万リポジトリ(前年比+14.57%)
  • TypeScript: 539万リポジトリ(前年比+78.10%)
  • Java: 352万リポジトリ(前年比+9.35%)
  • C++: 170万リポジトリ(前年比+11.82%)
  • C#: 147万リポジトリ(前年比+10.61%)

TypeScriptの78.10%という成長率は群を抜いています。

AIエージェント時代に型付き言語が選ばれる理由

GitHub NextリーダーのIdan Gazit氏は、この現象について興味深い分析をしています。

「静的型付き言語はガードレールを提供する。AIツールが私のためにコードを生成する場合、そのコードが正しいかどうかを知る高速な方法が必要だ。明示的な型はその安全ネットを提供する」

つまり、AIがコードを生成する時代において、型システムには以下の利点があるということです。

ハルシネーション面積の削減という観点では、型システムが不正なコード生成の表面領域を制限してくれます。モデル推論の構造化という面では、生成中にAIモデルがより多くの構造化情報に基づいて推論できます。そしてエラー検出の迅速化により、型チェッカーがAIコード生成時の即座の検証を実現してくれます。

これは私自身の開発体験とも一致します。GitHub CopilotでTypeScriptのコードを生成させると、型エラーが即座にIDEに表示されるため、AIの出力を素早く検証できます。Pythonだとランタイムまでエラーがわからないことが多いんですよね。

Zenブラウザが最速成長プロジェクトに

Octoverse 2025のもう一つの注目点は、コントリビューター増加率で最も成長したOSSプロジェクトのランキングです。

1位はFirefoxベースのブラウザ「Zen Browser」でした。プライバシー重視、コンテンツ制御、ネットワークルーティング制御といった機能が開発者の関心を集めています。

興味深いのは、上位10プロジェクトのうち6つがAIインフラ関連という点です。

  • vllm-project/vllm - 高スループットLLM推論エンジン
  • continue-dev/continue - LLM統合コーディングアシスタント
  • ollama/ollama - ローカルモデルランナー
  • Aider-AI/aider - AIコマンドラインコード編集
  • ggml-org/llama.cpp - 軽量ローカルLlama推論
  • astral-sh/uv - Pythonパッケージインストーラ

AIを「使う」だけでなく、AIの「インフラ」を構築する動きが活発化していることがわかります。

インドが開発者コミュニティで世界最大に

2025年、インドは全パブリック・OSSコントリビューター基盤で世界最大となり、初めて米国を追い越しました。520万人以上の開発者を追加し、これは全新規開発者の14%以上を占めます。

GitHubの回帰分析モデルによれば、2030年時点でインドは5750万人の開発者に到達し、世界最大の開発者コミュニティになる見通しです。

これは日本企業にとっても示唆に富む数字です。グローバルな開発リソースの重心がアジアに移動しつつある中で、どのように人材戦略を組み立てるかを考える必要があります。

GitHub Copilotの本番利用が加速

GitHub Copilotコーディングエージェントは2025年5月〜9月の5ヶ月間で100万件以上のプルリクエスト作成に使用されました。これは実験段階から本番運用段階への転換を象徴しています。

さらに注目すべきは、新規登録開発者の80%以上が最初の1週間以内にGitHub Copilotを使用しているという点です。AIはもはや「習得すべき高度なツール」ではなく、デフォルトの開発者体験の一部になっています。

私の見解

このレポートを見て強く感じたのは、「言語選択の基準が変わりつつある」ということです。

従来は「この言語は書きやすいか」「パフォーマンスは良いか」「エコシステムは充実しているか」といった観点で言語を選んでいました。しかし今後は「AIとの相性が良いか」という新しい軸が加わってきます。

TypeScriptの躍進は、その先行指標かもしれません。型情報という「構造化されたメタデータ」を持つ言語は、AI時代において優位性を持つ可能性があります。

一方で、PythonがAI/MLの開発で依然として重要な役割を果たしていることも事実です。新規AI関連リポジトリの約半数はPythonで書かれています。言語の「住み分け」が進んでいるとも言えるでしょう。

今後の開発言語選択では、「人間が書く」だけでなく「AIが書く」「AIが検証する」という観点も含めて総合的に判断することが重要になりそうです。

まとめ

GitHub Octoverse 2025から見えてきたのは、AI時代における開発エコシステムの構造変化です。

  • TypeScriptがPythonを抜いて1位に(型システムがAI時代に評価される)
  • 新規開発者の80%以上が最初の1週間でCopilotを使用
  • インドが世界最大の開発者コミュニティに成長
  • AIインフラプロジェクトへの関心が急増

言語選択、チーム構成、開発プロセス——あらゆる面でAIを前提とした再設計が求められています。

参考リンク

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