【AWS Lambda vs Azure Functions】クラウド環境で最適なサーバーレスを選ぶ実践的アプローチ

【AWS Lambda vs Azure Functions】クラウド環境で最適なサーバーレスを選ぶ実践的アプローチ

最終更新日:2025年09月18日公開日:2025年09月18日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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サーバーレスアーキテクチャの採用が加速する中、「AWS Lambda」と「Azure Functions」という2大プラットフォームの選定で悩むエンジニアは多いのではないでしょうか。

両者は似た機能を提供しながらも、エコシステムや開発体験、コスト構造において独自の特徴を持っています。実際のプロジェクトで両サービスを活用してきた経験から、技術的な違いだけでなく、組織の状況や開発チームのスキルセットを考慮した選定基準について整理してみました。

単純な機能比較では見えてこない、実践的な判断軸をお伝えします。

AWS LambdaとAzure Functions、クラウド環境で最適なサーバーレスを選ぶ実践的アプローチ

サーバーレスコンピューティングは、もはやモダンアーキテクチャの標準的な選択肢となりました。特に「AWS Lambda」と「Azure Functions」は、それぞれのクラウドプラットフォームにおける中核的なサービスとして、多くの企業で採用が進んでいます。しかし、実際にどちらを選ぶべきかという判断は、単純な機能比較だけでは決められません。

サーバーレスプラットフォーム選定の本質的な課題

多くの技術選定において、スペック比較表を作成して終わりというケースを見かけますが、サーバーレスプラットフォームの選定においては、それだけでは不十分です。なぜなら、サーバーレスアーキテクチャは単独で存在するものではなく、クラウドエコシステム全体の中で機能するためです。

私自身、複数のプロジェクトで両プラットフォームを使い分けてきましたが、最終的な選定理由は「技術的優位性」よりも「組織的な適合性」であることが多かったです。この視点は意外と見落とされがちですが、プロジェクトの成功には極めて重要な要素となります。

開発体験から見る両プラットフォームの特徴

言語サポートと開発環境の違い

AWS Lambdaは「Node.js」「Python」「Java」「C#(.NET)」「Go」「Ruby」「PowerShell」など幅広い言語をサポートしています。さらにカスタムランタイムやコンテナイメージによる独自言語の利用も可能です。一方、Azure Functionsは「C#」「F#」「Java」「JavaScript/TypeScript」「Python」「PowerShell」をサポートし、特にMicrosoftのエコシステムに適した言語が充実しています。

興味深いのは、LambdaにはないF#がAzureで使える一方、AzureにはRubyやGoのネイティブサポートがないという点です。これは単なる技術的な差異ではなく、それぞれのプラットフォームが想定する開発者コミュニティの違いを反映していると考えられます。

ローカル開発環境の成熟度

ローカル開発環境については、両者とも充実したツールを提供しています。AWS Lambdaでは「AWS SAM CLI」を使用してローカルエミュレーションが可能で、sam local invokeコマンドでブレークポイントを使ったデバッグも実現できます。Azure Functionsは「Azure Functions Core Tools」により、ローカルでFunctionsホストを起動し、各種トリガーをエミュレートできます。

実際の開発現場では、この差は思った以上に重要です。チームメンバーのIDEの使い慣れや、既存のCI/CDパイプラインとの親和性が、開発効率に直接影響するためです。Visual Studio Codeを使用している環境では、どちらも優れた拡張機能が提供されていますが、Visual Studioを主力としている.NET開発チームであれば、Azure Functionsの方が自然に馴染むでしょう。

実行モデルとパフォーマンス特性の理解

スケーリングモデルの本質的な違い

AWS LambdaとAzure Functionsのスケーリングモデルには、根本的な設計思想の違いがあります。AWS Lambdaは「1リクエスト=1実行環境」というシンプルなモデルで、リージョンあたりデフォルト1000の同時実行をサポートします。これに対してAzure Functions(Consumptionプラン)は、「1ホスト上で複数リクエスト処理+インスタンス追加」という形でスケールします。

以下の表は、両プラットフォームのスケーリング特性の違いを整理したものです。

表 AWS LambdaとAzure Functionsのスケーリング特性比較

項目

AWS Lambda

Azure Functions (Consumption)

実践的な影響

基本モデル

1リクエスト1環境

ホスト単位でスケール

Lambdaは予測可能、Azureは効率的

同時実行上限

デフォルト1000(拡張可能)

ホストあたり制限なし(インスタンス上限あり)

急激なスパイクへの対応力に差

スケール速度

高速(ミリ秒単位)

HTTPは高速、非HTTPは30秒に1回

イベントソースによって適性が異なる

コールドスタート対策

プロビジョンドコンカレンシー

Premiumプラン

コスト構造が大きく異なる

この違いは、アプリケーションの特性によって有利不利が変わります。例えば、予測不能なトラフィックスパイクがあるWebAPIではLambdaの高速スケーリングが有利ですが、定常的な処理が多いバッチ処理ではAzure Functionsの効率的なリソース利用が優位に働く可能性があります。

最大実行時間という制約の捉え方

AWS Lambdaの最大実行時間は「15分」、Azure Functions(Consumptionプラン)はデフォルト「5分」(最大10分まで延長可能)という制限があります。ただし、Azure FunctionsのPremiumプランや専用プランでは実質無制限となります。

この差をどう評価するかは、サーバーレスアーキテクチャに対する考え方次第です。長時間実行を許容することが「サーバーレスの本質」から外れるという見方もあれば、柔軟性を重視する立場もあります。私の経験では、15分を超える処理が必要な場合、そもそもアーキテクチャを見直すべきサインであることが多いです。AWS Step FunctionsAzure Durable Functionsを活用したオーケストレーション型の設計に移行することで、より保守性の高いシステムを構築できます。

コスト構造から見る選定基準

従量課金モデルの微妙な違い

両サービスとも基本的には「pay-as-you-go」の従量課金ですが、細部には重要な違いがあります。料金計算の基本は、リクエスト数と実行時間×メモリ量ですが、Azure Functionsには「Consumptionプラン」以外に「Premiumプラン」「Dedicatedプラン」という選択肢があります。

特に注目すべきは、Azure FunctionsのPremiumプランです。このプランでは、コールドスタートを解消できる代わりに、常に最低1インスタンス分の料金が発生します。つまり、アイドル時もコストが発生するという点で、完全なサーバーレスとは言えない側面があります。

隠れたコストファクターの考慮

料金表には現れない、実践的なコストファクターもあります。開発者の学習コスト、既存システムとの統合コスト、監視・運用ツールの追加費用などです。例えば、既にAWSのエコシステムに深く依存している組織がAzure Functionsを採用する場合、クロスクラウドのネットワーク転送料金や、複数の監視ツールを運用するコストが発生します。

以下に実際のプロジェクトで考慮すべきコスト要素をまとめています。

表 総所有コスト(TCO)の観点から見た比較要素

コスト要素

AWS Lambda

Azure Functions

判断のポイント

基本利用料

完全従量制

プランによって変動

利用パターンの予測精度

開発者教育

AWS認定が豊富

Microsoft系技術者に有利

既存チームのスキルセット

エコシステム統合

AWSサービス間は最適化

Azureサービス間は最適化

既存インフラの状況

監視・運用ツール

CloudWatch中心

Azure Monitor/Application Insights

既存の運用体制との親和性

ベンダーロックイン回避

コンテナ化で一部回避可能

同様に一部回避可能

将来の移行可能性の重要度

セキュリティと運用面での考慮事項

IAMとRBACというアプローチの違い

AWS Lambdaは「IAMロール」による権限管理、Azure Functionsは「Azure AD(Entra ID)」と「RBAC」による管理という違いがあります。これは単なる実装の違いではなく、セキュリティモデルの思想が異なることを意味します。

AWS IAMは細かい権限制御が可能で、最小権限の原則を徹底しやすい一方、設定が複雑になりがちです。Azure RBACは役割ベースでシンプルですが、きめ細かい制御には工夫が必要です。どちらが優れているという話ではなく、組織のセキュリティポリシーやコンプライアンス要件との適合性で判断すべきです。

ネットワークセキュリティの実装パターン

VPCやVNet統合によるネットワークレベルのセキュリティも、両者で実装方法が異なります。AWS LambdaをVPCに配置する場合、ENI(Elastic Network Interface)の作成に時間がかかるという課題がありましたが、最近の改善により大幅に高速化されています。Azure FunctionsのVNet統合は、Premiumプラン以上で利用可能で、App Service環境の一部として動作します。

実際のプロジェクトでは、既存のネットワークアーキテクチャとの整合性が最も重要です。オンプレミスとのハイブリッド構成を前提とする場合、Azure ExpressRouteAWS Direct Connectとの連携も含めて評価する必要があります。

実践的な選定フレームワーク

技術的適合性の評価軸

ここまでの検討を踏まえ、実践的な選定基準を整理します。技術的な観点では以下の要素を評価することが重要です。

まず処理特性による適合性を判断します。予測不能なスパイクが多いワークロードではLambdaの高速スケーリングが有利に働き、定常的な処理が中心の場合はAzure Functionsの効率的なリソース利用が適しています。次に既存技術スタックとの親和性を評価します。.NET中心の開発チームならAzure Functions、Node.js/Python中心ならどちらも選択可能ですが、AWS SDKの成熟度を考慮するとLambdaが有利かもしれません。

組織的適合性の重要性

技術的な評価以上に重要なのが、組織的な適合性です。既存のクラウド戦略、開発チームのスキルセット、パートナー企業との関係性など、技術以外の要素が選定に大きく影響します。

例えば、Microsoft 365を全社導入している企業では、Azure Active Directoryとの統合が容易なAzure Functionsを選ぶメリットが大きいでしょう。一方、既にAWSでマルチアカウント戦略を展開している企業では、AWS Organizationsとの連携を考慮してLambdaを選ぶのが自然です。

段階的導入アプローチの提案

どちらか一方に全面的にコミットする前に、段階的な導入アプローチを推奨します。以下のステップで進めることで、リスクを最小化しながら最適な選択を見つけることができます。

最初にPoCプロジェクトで両プラットフォームを評価し、技術的な実現可能性と開発者の学習曲線を確認します。次に非クリティカルな機能から本番導入を開始し、運用ノウハウを蓄積します。そして運用実績を基に全社展開の判断を行い、必要に応じてマルチクラウド戦略も検討します。

エコシステムの成熟度という観点

サードパーティツールとの連携

両プラットフォームとも、DatadogやNew Relicなどの主要な監視ツール、GitHub ActionsやJenkinsなどのCI/CDツールとの連携は充実しています。しかし、細かい部分では差があります。

AWS LambdaはServerless Frameworkのような専用フレームワークのサポートが充実しており、Infrastructure as Codeの実践が容易です。Azure Functionsも同様のツールに対応していますが、コミュニティの活発さという点ではAWSが一歩リードしている印象があります。

コミュニティとナレッジの蓄積

技術選定において見落としがちなのが、コミュニティの規模とナレッジの蓄積量です。Stack Overflowでの質問数、GitHubでのサンプルコード数、技術ブログの投稿数など、問題解決のためのリソースの豊富さは、開発効率に直結します。

現時点では、AWS Lambdaの方がコミュニティが大きく、トラブルシューティングの情報も豊富です。ただし、Azure FunctionsもMicrosoftの強力なサポートとドキュメント整備により、急速にキャッチアップしています。

将来性とロードマップの考察

サーバーレスの進化の方向性

両プラットフォームとも、単純な関数実行環境から、より高度なアプリケーションプラットフォームへと進化しています。AWS LambdaはLambda Container Image Supportにより、コンテナベースの開発との融合を進めています。Azure FunctionsはDurable Functionsにより、ステートフルなワークフローの実現を強化しています。

この進化の方向性を見ると、両者とも「サーバーレス」という枠組みを超えて、より包括的なアプリケーション実行環境を目指していることがわかります。そのため、現時点での機能差よりも、自社の技術戦略との整合性を重視すべきです。

ベンダーロックインへの対処

サーバーレスプラットフォームの選定において、ベンダーロックインは避けられない課題です。しかし、これを過度に恐れて選定を先送りにすることは、イノベーションの機会損失につながります。

重要なのは、ロックインを完全に回避することではなく、管理可能なレベルに抑えることです。ビジネスロジックとプラットフォーム固有の実装を分離する、抽象化レイヤーを設ける、定期的にポータビリティを評価するといった対策により、将来の選択肢を確保できます。

まとめ

AWS LambdaとAzure Functions、どちらが優れているかという単純な問いに対する答えはありません。両者とも成熟したサーバーレスプラットフォームであり、それぞれに強みがあります。

選定の鍵は、技術的な機能比較だけでなく、組織の現状と将来像を総合的に評価することです。既存のクラウド資産、開発チームのスキル、ビジネス要件、コスト構造など、多面的な観点から判断する必要があります。

私の経験から言えることは、「完璧な選択」を追求するよりも、「実行可能な選択」を素早く行い、継続的に改善していくアプローチの方が成功確率が高いということです。サーバーレスアーキテクチャの真の価値は、アジリティとイノベーションの加速にあります。その本質を見失わず、自社にとって最適な選択をしていただければと思います。

技術選定は終わりではなく始まりです。どちらのプラットフォームを選んでも、継続的な学習と改善により、ビジネス価値を最大化することは可能です。重要なのは、選定プロセスを通じて得られた知見を組織全体で共有し、次の意思決定に活かしていくことです。

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