今からではなく、いまが最短ルート。Amazon SageMaker Canvas 2025年版・実戦ガイド

今からではなく、いまが最短ルート。Amazon SageMaker Canvas 2025年版・実戦ガイド

最終更新日:2025年08月26日公開日:2025年08月16日
久保 翔太
writer:久保 翔太
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「Amazon SageMaker Canvas」を中心に、いまの機械学習・生成AI導入をどう小さく始めて素早く広げるかを、最新のファクトと実務の視点でまとめました。

2025年のCanvasは、可視化されたデータ準備「Data Wrangler」統合、基盤モデル連携、MLOps接続までをひとつの体験に寄せています。価格体系も明確になり、VPC閉域構成やモデルレジストリ連携など、エンタープライズの要件にも応えやすくなりました。本稿では、機能の正体と使いどころ、ガバナンス設計、費用の目安、進め方の型まで一気通貫で整理します

Amazon SageMaker Canvasを「2025年の現実解」として捉え直す

2025年の「Amazon SageMaker Canvas」は、ノーコードでの機械学習モデル構築・予測に加え、生成AIのチャット、AmazonのAIサービスを呼び出す「Ready-to-use」機能、そして「SageMaker JumpStart」や「Amazon Bedrock」連携を含む統合ワークスペースとして進化しています。公式ドキュメントでは、表形式・時系列・テキスト・画像のカスタムモデル、生成AIチャット、Ready-to-useモデルの三つの柱が明確化されています。利用可能リージョンにはアジアパシフィック(東京)も含まれます。

引用:Amazon SageMaker Canvas

ノーコード環境で予測の生成、カスタムモデル構築、一般的な大規模言語モデルとのチャットが可能であるという点は2025年時点の公式仕様です。

Canvasの生成AI機能は、基盤モデルの利用・権限設計の観点から「Amazon Bedrock」連携を前提に管理できます。ベストプラクティスとして、ユーザーやプロジェクト単位でBedrock利用権限や微調整の可否をIAMで制御する運用設計が推奨されます。

進化ポイントを3つで押さえる

2024年以降のアップデートで、Canvasの体験は実務寄りに整理されました。特にデータ準備・基盤モデル・MLOpsの三点は導入効果に直結します。

データ準備は「Data Wrangler」統合と自然言語指示で加速

「Data Wrangler」統合により、50以上のデータソースからの取り込み、300超の変換・分析を備えたデータ準備フローをCanvas内で完結できます。自然言語での探索・変換指示も可能で、分析者の操作負荷を下げます。

参考:Accelerate data preparation for ML in Amazon SageMaker Canvas

CanvasはS3やAthena、RDS、Redshift(プロビジョンド)、Snowflake、DocumentDB、各種SaaS・JDBCコネクタに接続でき、SQLや結合操作を伴う取り込みもサポートします。閉域要件がある場合は「VPCのみモード」でのセットアップを行い、私設のVPCエンドポイント経由で安全に運用できます。

参考:データソースに接続する

生成AIはBedrock/JumpStart連携で拡張

Canvasは「Ready-to-use」モデルとしてRekognition、Textract、Comprehend等のAIサービスを呼び出せるほか、JumpStart経由で基盤モデルにもアクセスできます。用途に応じ、コンテンツ生成・要約・抽出・分類などをノーコードで試せるのが強みです。

参考:Amazon SageMaker Canvas

MLOps接続はモデルレジストリがハブになる

Canvasで作成した表・画像・テキスト・時系列の各モデルや、JumpStartベースで微調整したモデルは「SageMaker Model Registry」に登録し、承認・差し戻し・デプロイのライフサイクルに乗せられます。なお注記として、Canvasで構築したBedrockベースの微調整モデルはレジストリ登録対象外です。この制約は設計時に考慮が必要です。

参考:SageMaker AI モデルレジストリにモデルバージョンを登録する

価格モデルを実務目線で読み解く

料金は大きく「ワークスペース(セッション時間)」「データ処理」「カスタムモデルトレーニング」「予測」「Ready-to-use/基盤モデル利用」に分かれます。ワークスペースは1.9 USD/時間で、2か月無料枠では最大160時間/月が付与されます。5GB超のデータ準備や大規模バッチ予測では、EMR ServerlessやBatch Transformの従量課金が併用されます。

引用: Amazon SageMaker Canvas の料金

無料利用枠は2か月・160時間/月、ワークスペースは1.9 USD/時間
と定義されています。大規模処理ではEMR Serverless等の課金が併用されます。

以下は、費用要素を俯瞰するための整理です。

表 Canvasの主な費用要素と課金トリガの整理

要素

主なトリガ

代表的な補足

ワークスペース(セッション時間)

Canvas起動からログアウトまでの時間計測

1.9 USD/時間。自動シャットダウン設定で抑制可能

データ処理

5GB超の準備や全量実行でEMR Serverless等が起動

変換内容・データ量・インスタンスタイプに依存

カスタムモデルトレーニング

AutopilotやCV/NLP学習のインスタンス時間

g系/GPU系など選択により単価差あり

予測(推論)

リアルタイム/バッチの実行時間・データ量

5GB以内の表バッチはCanvas内で追加料金なし

Ready-to-use/基盤モデル

BedrockやJumpStart、各AIサービスの従量

トークン/時間/リクエスト単位で加算

この表は公式料金ページの記載に基づき要素をまとめたものです。実際の金額はデータ量や選択インスタンスで変動します。

どこから始め、どこまで広げるか

最短で価値を出すには、業務のKPIとCanvasの機能を正しくマッピングすることが大切です。まずは生成AIの要約・抽出や、表データの二値分類・回帰で「小さく当てる」テーマから着手し、モデルトレーニングをMLOpsに接続して継続改善へつなげます。

参考:Amazon SageMaker Canvas

ここで、有効なスタートラインとアンチパターンを現場感で共有します。

前提を一文で説明した上で、主な注意点を挙げます。

  • まずは5GB以内のサンプルで当たりを取り、変換手順をData Wranglerフローに固定化するべきである
  • Bedrockの利用・微調整可否はIAMで明示管理し、プロジェクト単位の権限分離を徹底すべきである
  • Redshift Serverlessではなくプロビジョンド接続が前提の点を接続設計に織り込むべきである
  • Bedrock微調整モデルはレジストリ非対応という制約を前提に、JumpStart経由の微調整やホスティング計画を検討すべきである

上記の根拠は、データ接続仕様とレジストリの注記に基づきます。

ワークフロー設計のリファレンス

Canvasでの一般的なフローを、2025年仕様に合わせて書き換えます。各段階での機能と意思決定ポイントを明確化しました。

ビジネスゴールとデータ発見

KPI達成に寄与する予測・分類・抽出のタスク定義を先に固め、データソースの接続性と品質を確認します。Canvasのコネクタと自然言語ドリブンなデータ探索は、この初動を短縮します。

データ準備と特徴量化

Data Wranglerで変換レシピをフロー化し、漏れなく再現可能にします。50+ソース・300+変換と品質レポートを活用し、学習前の品質偏差を潰します。

モデル生成と評価

表・時系列・画像・テキストのカスタムモデルはAutopilotが探索し、リーダーボードで比較できます。生成AIはReady-to-useやBedrock/JumpStart経由でプロトタイピングします。

MLOps連携と運用

モデルレジストリに登録して承認フローを回し、必要に応じてエンドポイント配備やバッチ推論へ接続します。Bedrockの利用は権限分離し、閉域要件がある場合はVPCのみモードでの運用を選択します。

具体的な設計ノート

ここでは、要件に対する設計上の要点を短く共有します。

  • セキュリティ境界はVPCのみモードで設計し、DocumentDBやRDS等のプライベートエンドポイント接続を前提とするべきである
  • データ準備は自然言語指示で探索を速めつつ、確定版はData Wranglerフローとして保存し審査可能性を担保するべきである
  • レジストリ運用はPending→Approved/Rejectedの明確な責任分担を定義し、承認メトリクス(精度・再現率等)を公開するべきである

これらは、VPC設定・Data Wrangler統合・モデルレジストリの仕様に適合します。

参考:Configure Amazon SageMaker Canvas in a VPC without internet access

データ接続の現実解

データはS3/Athena/RDS/Redshift/Snowflake/DocumentDB/SaaS/JDBC等から取り込めます。Redshiftはプロビジョンド接続、AthenaはGlue Data Catalog経由、S3は表と画像に対応といった個別仕様を押さえておくと、PoCの詰まりを避けられます。

引用:https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/sagemaker/latest/dg/canvas-connecting-external.html

Redshiftはプロビジョンドのみ、Snowflakeは結合やSQL編集を伴う取り込みに対応とドキュメントに明記されています。

ケース別の使い分け

現場では、CanvasとStudio/Bedrockをどう住み分けるかが成果の差になります。Canvasはノーコードでの迅速な検証と、データ準備〜評価〜共有までの一気通貫が強みです。生成AIの運用はBedrock権限設計と合わせて進めるのが安全です。MLOpsが必要なモデルはレジストリ連携で運用ラインに乗せます。

まとめ:小さく始めて、レジストリと権限で伸ばす

Canvasは2025年時点で、データ準備から生成AIまでを一枚の体験に揃えています。まずは小さく価値を出し、Data Wranglerで手順を固定し、レジストリで承認・配備につなぐ。この「小さく当てて、仕組みで広げる」流れをチームの標準にできれば、過度に属人化せず、継続的にAIの価値を積み上げられます。価格は明快で、無料枠も活用しやすく、閉域や権限設計の選択肢も揃っています。エンタープライズの現実に合わせ、現場が動けるAI導入を着実に進めていきます。

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