DynamoDB設計の新常識:2025年最新アップデートで変わるNoSQL活用戦略

DynamoDB設計の新常識:2025年最新アップデートで変わるNoSQL活用戦略

最終更新日:2025年08月26日公開日:2025年08月19日
益子 竜与志
writer:益子 竜与志
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2024年から2025年にかけて、DynamoDBは劇的な進化を遂げました。「オンデマンドモード料金50%削減」、「マルチリージョン強整合性」の実現、そして「Warm Throughput」による事前パーティション割り当てなど、これまでの設計常識を覆すような機能が次々と発表されています。特に注目すべきは、これまでNoSQLの弱点とされてきた「強整合性」の課題を「Multi-Region Strong Consistency(mRSC)」が解決し、金融取引や在庫管理など、より厳密なトランザクション処理が求められるユースケースにも対応可能になったことです。本記事では、これらの最新アップデートがDynamoDBの設計思想にどのような変化をもたらし、エンジニアがどのように活用すべきかを、実践的な視点から解説します。

DynamoDBが変える2025年のデータベース戦略

DynamoDBを選択する理由が、2024年から2025年にかけて大きく変わりました。これまでは「高速性」と「スケーラビリティ」が主な採用理由でしたが、最新のアップデートにより「コスト効率」と「強整合性」という新たな強みが加わったのです。

私たちが日々のプロジェクトで感じているのは、DynamoDBがもはや単なる「NoSQL」という枠を超えて、エンタープライズアプリケーションの中核を担うデータベースに進化したということです。特に2024年11月に発表された最大67%の価格削減は、スタートアップからエンタープライズまで、あらゆる規模の企業にとってゲームチェンジャーとなっています。

最新アップデートが示すDynamoDBの新たな可能性

価格革命がもたらすアーキテクチャの変化

2024年11月の価格改定は、単なるコスト削減以上の意味を持ちます。「オンデマンドモード」が50%削減、「Global Tables」のオンデマンドモードに至っては最大67%削減という大幅な値下げは、これまでコストを理由にプロビジョンドモードを選択していた多くのプロジェクトに、新たな選択肢を提供しています。

私たちのプロジェクトでも、これまでトラフィックの予測が困難なサービスでは、プロビジョンドモードで余裕を持った設定をせざるを得ませんでした。しかし、この価格改定により、オンデマンドモードを積極的に採用できるようになり、結果として運用の複雑さが大幅に削減されています。特にスタートアップや新規事業において、初期段階でトラフィック予測が困難な場合でも、オンデマンドモードで安心してスタートできるようになったことは、大きな前進です。

Multi-Region Strong Consistencyが解決する一貫性の課題

2024年末のre:Inventで発表されたMulti-Region Strong Consistency(mRSC)は、DynamoDBの歴史において最も重要なアップデートの一つです。これまでGlobal Tablesは「最終的整合性」のみをサポートしていましたが、mRSCの導入により「強整合性」を持つグローバルアプリケーションの構築が可能になりました。

mRSCの仕組みは非常に興味深いものです。「Multi-Region Journal(MRJ)」に書き込み操作を記録し、書き込み順序を厳密に維持します。各リージョンが強整合な読み取りを行う際には、他リージョンの最新書き込みを反映するまでハートビートで同期を確認し、少なくとも2リージョンに永続化されてから応答を返します。

この機能により、これまでDynamoDBの採用を見送っていた金融取引システムや在庫管理システム、グローバルなID生成など、厳密な一貫性が求められるユースケースでもDynamoDBを選択できるようになりました。現状では最大3リージョンまでのサポートですが、今後の拡張も予定されているため、グローバル展開を視野に入れたアプリケーション設計において、新たな選択肢となっています。

Warm ThroughputとPre-warmによる性能最適化

突発的なトラフィックへの新たなアプローチ

2024年末に追加されたWarm Throughput機能は、DynamoDBのパフォーマンス管理に革新をもたらしました。この機能により、テーブルが即座に処理可能な読取り・書込み数を可視化し、必要に応じて事前にパーティションを割り当てることが可能になります。

Warm Throughputの真価は、製品ローンチやセールイベントなど、予測可能な大規模トラフィックへの備えにあります。従来は、突発的なアクセス増加時にスロットリングが発生し、ユーザー体験を損なうリスクがありました。しかし、Pre-warmingを活用することで、事前にテーブルやインデックスを「温めて」おき、特定のスループット量を保証できるようになりました。

実際のプロジェクトでは、ECサイトの大型セール前にPre-warmを実行し、想定されるピークトラフィックに備えるという使い方をしています。ウォームスループット値の確認は無料で行えるため、まずは現状の把握から始め、必要に応じてPre-warm(有料)を実行するという段階的なアプローチが可能です。

オンデマンドとプロビジョンドの新たな使い分け

Warm Throughputの登場により、オンデマンドモードとプロビジョンドモードの選択基準も変化しています。これまでは「予測可能ならプロビジョンド、不確実ならオンデマンド」という単純な判断でしたが、現在はより戦略的な選択が可能です。

オンデマンドモードでもPre-warmを使用できるため、基本的にはオンデマンドで運用しつつ、イベント時のみPre-warmで対応するという柔軟な運用が実現できます。価格改定によりオンデマンドモードのコスト効率が大幅に改善されたことも相まって、多くのケースでオンデマンドモードが第一選択となりつつあります。

Zero-ETL統合が実現する分析基盤との融合

リアルタイム分析への道筋

DynamoDBからRedshiftへのZero-ETLインテグレーションの発表は、トランザクションデータの分析に革命をもたらしています。従来は、ETLパイプラインの構築・運用に多大なコストと労力を要していましたが、Zero-ETLにより、DynamoDBのデータをほぼリアルタイムでRedshiftに複製し、即座に分析クエリを実行できるようになりました。

私たちのプロジェクトでは、ECサイトの購買データをDynamoDBで管理し、Zero-ETL経由でRedshiftに自動複製することで、リアルタイムな売上分析ダッシュボードを実現しています。ETLパイプラインの開発・保守が不要になったことで、エンジニアリソースをよりビジネス価値の高い開発に集中できるようになりました。

OpenSearch Serviceとの連携による検索機能の強化

Zero-ETLはRedshiftだけでなく、OpenSearch Serviceとの統合も一般提供されています。これにより、DynamoDBに格納されたデータを自動的にOpenSearchに複製し、全文検索や複雑なクエリに対応できるようになりました。

従来はDynamoDBの「キーベースアクセス」という制約から、複雑な検索要件には別途検索エンジンを構築する必要がありました。しかし、Zero-ETL統合により、この課題が大幅に簡素化されています。特に、商品カタログや顧客情報など、高速なトランザクション処理と柔軟な検索の両方が求められるユースケースにおいて、強力なソリューションとなっています。

進化したDynamoDB設計のベストプラクティス

アクセスパターン設計の新たな視点

単一テーブル設計の再評価

DynamoDBの設計において「単一テーブル設計」は長らく推奨されてきましたが、2025年現在、この手法はより洗練された形で活用されています。複数のエンティティを1つのテーブルに格納し、複合キーやプレフィックスにより区別する手法は、依然として有効ですが、mRSCやZero-ETL統合の登場により、その適用範囲がより明確になりました。

私たちの経験では、トランザクション処理が中心で、エンティティ間の関連性が強い場合には単一テーブル設計が有効です。一方で、分析要件が強い場合や、エンティティごとに異なるスケーリング要件がある場合は、複数テーブル設計を選択し、Zero-ETL経由で統合するアプローチが効果的です。

パーティションキー設計の精緻化

パーティションキーの設計は、DynamoDBのパフォーマンスを左右する最も重要な要素です。2025年のベストプラクティスでは、以下の観点での設計が推奨されています。

均等な負荷分散を実現するためには、パーティションキーに高カーディナリティの属性を選択することが基本です。ユーザーIDなどの自然キーをそのまま使用するのではなく、ハッシュ化して偏りを減らすアプローチが有効です。また、タイムスタンプベースのキーを使用する場合は、プレフィックスとしてランダムな要素を追加することで、ホットパーティションを回避できます。

Warm Throughputの登場により、パーティション設計の検証がより容易になりました。設計段階でウォームスループット値を確認し、必要に応じてキー設計を見直すという反復的なアプローチが可能になっています。

セカンダリインデックスの戦略的活用

GSIの新たな活用パターン

グローバルセカンダリインデックス(GSI)の活用は、DynamoDB設計の要です。2025年現在、GSIの設計において重要なのは「必要最小限の属性投影」と「スパースインデックスの活用」です。

スパースインデックスは、インデックス対象属性を持たない項目を含めないため、特定の条件を満たすアイテムのみを効率的に検索できます。例えば、「アクティブ」フラグがtrueのアイテムのみをインデックス化することで、無効データを自動的に除外し、クエリパフォーマンスを向上させることができます。

私たちのプロジェクトでは、注文管理システムにおいて「未配送の注文」のみをGSIでインデックス化し、配送済みの注文は自動的にインデックスから除外されるよう設計しています。これにより、インデックスサイズを抑制しつつ、必要なクエリパフォーマンスを維持しています。

LSIの限定的な使用

ローカルセカンダリインデックス(LSI)は、テーブル作成時のみ定義可能という制約があるため、その使用は慎重に検討する必要があります。2025年のベストプラクティスでは、LSIよりもGSIを優先的に使用することが推奨されています。

LSIの使用が適切なケースは限定的で、同一パーティションキー内で異なるソートキーによるクエリが頻繁に発生し、かつ強整合性読み取りが必要な場合のみです。それ以外のケースでは、柔軟性の高いGSIを選択することで、将来的な要件変更にも対応しやすくなります。

コスト最適化の新戦略

価格改定を活かした運用モデル

2024年11月の価格改定により、DynamoDBのコスト最適化戦略は大きく変わりました。特にオンデマンドモードの大幅な値下げは、これまでの「予測可能ならプロビジョンド」という常識を覆しています。

私たちの分析では、トラフィックの変動が激しいサービスや、夜間・休日のアクセスが大幅に減少するサービスでは、オンデマンドモードの方がトータルコストで有利になるケースが増えています。月間のトラフィックパターンを分析し、プロビジョンドモードでの最小設定とオートスケーリングコストを比較すると、多くの場合でオンデマンドモードが経済的です。

DynamoDB Accelerator(DAX)の戦略的活用

DynamoDB Accelerator(DAX)は、読み取りレイテンシをミリ秒からマイクロ秒に短縮する強力なキャッシュソリューションです。価格改定により、オンデマンドモード利用時でもDAXのコスト効率が向上し、より多くのユースケースで採用が進んでいます。

DAXの導入判断において重要なのは、読み取りパターンの分析です。同じアイテムへの繰り返し読み取りが多い場合や、レイテンシ要件が厳しいリアルタイムアプリケーションでは、DAXの導入により大幅なパフォーマンス向上とコスト削減を同時に実現できます。

2025年のDynamoDB採用判断基準

推奨されるユースケース

リアルタイム処理を必要とするアプリケーション

DynamoDBは、ミリ秒単位のレイテンシで数百万RPSまでスケール可能な特性を持つため、リアルタイム処理が求められるアプリケーションに最適です。特に以下のようなユースケースで威力を発揮します。

IoTデバイスからのセンサーデータ収集では、大量のデータを高速に書き込む必要があります。DynamoDBのパーティション設計により、デバイスIDをパーティションキー、タイムスタンプをソートキーとすることで、効率的なデータ格納と時系列クエリを実現できます。

ゲームアプリケーションのセッション管理やリーダーボード実装においても、DynamoDBは優れた選択肢です。特にグローバルに展開するゲームでは、mRSCを活用することで、世界中のプレイヤーに対して一貫性のあるゲーム体験を提供できます。

マイクロサービスアーキテクチャのデータストア

マイクロサービスアーキテクチャにおいて、各サービスが独立したデータストアを持つ「データベース・パー・サービス」パターンの実装に、DynamoDBは理想的です。サービスごとに異なるスケーリング要件やアクセスパターンに対応でき、Zero-ETL統合により、サービス間のデータ連携も容易に実現できます。

私たちのプロジェクトでは、ユーザー認証サービス、商品カタログサービス、注文処理サービスなど、それぞれが独立したDynamoDBテーブルを持ち、必要に応じてZero-ETL経由でデータを統合するアーキテクチャを採用しています。この設計により、各サービスの独立性を保ちつつ、全体としての整合性も維持できています。

採用を慎重に検討すべきケース

複雑な集計・分析が中心の業務

DynamoDBは集計処理に最適化されていないため、複雑な集計や分析が業務の中心となるケースでは、他のデータベースサービスとの組み合わせを検討する必要があります。

ビジネスインテリジェンス(BI)ツールとの直接連携が必要な場合や、複雑なJOIN操作を頻繁に行う必要がある場合は、RedshiftやAuroraなどのリレーショナルデータベースの方が適しています。ただし、Zero-ETL統合により、DynamoDBをトランザクション処理に使用し、分析はRedshiftで行うという「ハイブリッドアーキテクチャ」も有効な選択肢です。

AWS以外のクラウド環境での運用

DynamoDBはAWSに密接に統合されたサービスであり、マルチクラウド戦略を採用する組織では、その依存性が課題となる可能性があります。オンプレミスや他のクラウドプロバイダーとの連携が必要な場合は、より汎用的なデータベースソリューションを検討する必要があります。

ただし、DynamoDB Local 2.xを使用した開発環境の構築は引き続き可能であり、開発段階での検証やテストには活用できます。2025年1月以降はバージョン1.xのサポートが終了するため、Java 11以降に対応したバージョン2.xへの移行が必要な点には注意が必要です。

実装における実践的アドバイス

データモデリングの考え方

非正規化の積極的採用

DynamoDBでは、リレーショナルデータベースのような正規化よりも、データの冗長性を許容した非正規化設計が推奨されます。これは、JOINコストを削減し、読み取りパフォーマンスを最大化するためです。

例えば、ユーザー情報と注文情報を管理する場合、注文テーブルにユーザー名やメールアドレスなどの基本情報を冗長に持たせることで、注文詳細の表示時に複数のテーブルを参照する必要がなくなります。データの一貫性は、DynamoDB Streamsを使用した非同期更新や、定期的なバッチ処理により維持できます。

TTLを活用したデータライフサイクル管理

Time To Live(TTL)機能を活用することで、不要になったデータを自動的に削除し、ストレージコストを最適化できます。セッションデータ、一時的なキャッシュ、期限付きのトークンなど、有効期限が明確なデータには積極的にTTLを設定することを推奨します。

私たちのプロジェクトでは、APIのレート制限情報やセッションデータにTTLを設定し、期限切れデータの自動削除を実現しています。これにより、手動でのデータクレンジング作業が不要になり、運用負荷が大幅に削減されました。

パフォーマンスチューニング

Warm Throughputを活用した事前最適化

新しいWarm Throughput機能を活用したパフォーマンスチューニングのアプローチを紹介します。まず、開発環境でアプリケーションの負荷テストを実施し、ピーク時の読み取り・書き込みパターンを分析します。次に、本番環境でウォームスループット値を定期的にモニタリングし、実際の使用パターンと比較します。

予測可能なトラフィック増加(キャンペーン、セール、新機能リリースなど)の前には、Pre-warmを実行してパーティションを事前に割り当てます。この際、コストと必要なパフォーマンスのバランスを考慮し、Pre-warmの期間と規模を決定することが重要です。

バッチ処理の最適化

DynamoDBへの大量データ投入や更新を行う際は、BatchWriteItemやBatchGetItemを活用することで、APIコール数を削減し、スループットを向上させることができます。ただし、1回のバッチリクエストには最大25アイテムという制限があるため、適切なバッチサイズの調整が必要です。

並列処理を実装する場合は、エクスポネンシャルバックオフを組み込んだリトライロジックを実装し、スロットリングエラーに適切に対処することが重要です。また、DynamoDB Streamsと組み合わせることで、バッチ処理の進捗をリアルタイムで監視し、エラー時の復旧も容易になります。

運用・監視のベストプラクティス

CloudWatchメトリクスの活用

DynamoDBの運用において、CloudWatchメトリクスの適切な監視は不可欠です。特に重要なメトリクスとして、ConsumedReadCapacityUnits、ConsumedWriteCapacityUnits、UserErrors、SystemErrorsなどがあります。

これらのメトリクスにアラームを設定し、異常な挙動を早期に検知することで、サービス影響を最小限に抑えることができます。また、Warm Throughputの値も定期的に確認し、実際の使用パターンとの乖離がないかチェックすることが重要です。

コスト管理とガバナンス

AWS Cost Explorerを活用して、DynamoDBの使用コストを定期的に分析し、最適化の機会を探ることが重要です。特に、テーブルごとのコスト内訳を確認し、使用頻度の低いGSIの削除や、アクセスパターンに応じたテーブルクラス(Standard、Standard-IA)の選択により、コストを大幅に削減できる場合があります。

また、AWS Organizationsと連携したコスト配分タグを設定することで、プロジェクトや部門ごとのコスト管理も可能になります。予算アラートを設定し、想定外のコスト増加を早期に検知する仕組みも構築することを推奨します。

まとめと今後の展望

DynamoDBは2024年から2025年にかけて、単なる高速NoSQLデータベースから、エンタープライズアプリケーションの中核を担う包括的なデータプラットフォームへと進化を遂げました。「50%の価格削減」、「マルチリージョン強整合性」、「Warm Throughput」、「Zero-ETL統合」など、これらの新機能は個別に見ても革新的ですが、組み合わせることで、より強力なソリューションを構築できます。

特に印象的なのは、これまでNoSQLの弱点とされてきた「強整合性」と「分析機能」の課題が、mRSCとZero-ETL統合により解決されたことです。これにより、DynamoDBの適用範囲は大幅に拡大し、より多様なユースケースに対応可能になりました。

今後もAWSは継続的な改善を続けることが予想され、mRSCの対応リージョン拡大や、さらなるZero-ETL統合の強化が期待されます。エンジニアとして重要なのは、これらの新機能を理解し、適切に活用することで、よりスケーラブルで、コスト効率が高く、運用しやすいアプリケーションを構築することです。

DynamoDBの進化は、データベース選択の判断基準を変えつつあります。2025年以降のアプリケーション開発において、DynamoDBは単なる選択肢の一つではなく、多くのケースで第一選択となる可能性を秘めています。最新の機能を活用し、ビジネス価値を最大化するデータベース戦略を構築していくことが、これからのエンジニアに求められる重要なスキルとなるでしょう。

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