Cobalt 200の基本スペック
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Azure Cobalt 200は、ARM Neoverse V3アーキテクチャをベースとした132コアのSoCです。先代のCobalt 100(128コア、Neoverse N2ベース)と比較すると、以下の進化を遂げています。
- 製造プロセス: TSMC 5nm → TSMC 3nm
- コア数: 128 → 132
- L2キャッシュ: → 3MB/コア(合計396MB)
- L3キャッシュ: → 192MB
- メモリ: 12チャネルDDR5
Neoverse N2からNeoverse V3への移行により、ソケット単位で約50%の性能向上を実現しています。単一スレッド性能ではNeoverse V2比で約13%の向上です。
35万通りの設計候補をシミュレーション
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Cobalt 200の開発で最も注目すべきは、その設計プロセスです。Microsoftは「デジタルツイン設計手法」を採用し、シリコンを製造する前に徹底したシミュレーションを行いました。
ステップ1: カスタムベンチマークの開発
従来のハードウェアベンチマーク(SPECなど)がAzureの実際のワークロードと乖離していることを認識し、140種類のカスタムベンチマークを開発しました。データベース、ウェブサーバー、ストレージキャッシュ、ネットワーク処理など、Azure特有のワークロードパターンを網羅しています。
ステップ2: 完全なデジタルツインの作成
Azure上のソフトウェアを用いて、Cobalt 200シリコンの完全なデジタルツインを作成しました。CPUコアマイクロアーキテクチャ、ファブリック(コア間通信網)、メモリIPブロック、サーバー設計(PCIレイアウト、電源供給)、さらにはラックトポロジー(冷却方式)まで含めたモデルです。
ステップ3: 大規模シミュレーション
AIと統計モデリングを活用し、140のベンチマークを2,800種類のSoC設計パラメータ組み合わせに対して実行。コア数、キャッシュサイズ、メモリ速度、サーバートポロジー、消費電力など、多次元のパラメータ空間を探索しました。
結果として、35万通り以上の設計候補が評価されました(140ベンチマーク × 2,800パラメータ組み合わせ)。
専用ハードウェアアクセラレータの統合
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設計過程で判明した重要な知見があります。クラウドワークロードの30%以上が圧縮、解凍、または暗号化を多用しているという点です。
この発見に基づき、Cobalt 200のSoC上に専用のハードウェアアクセラレータブロックを実装しました。
データ圧縮・解凍アクセラレータは、SQL Serverやデータ分析ワークロードのコンプレッション処理を高速化します。CPUサイクルを消費せずに圧縮処理を実行できます。
暗号化・復号化アクセラレータは、I/O暗号化やディスク暗号化などの処理を高速化。Azure SQLなど暗号化が集中的に行われるワークロードで効果を発揮します。
これらのオフロードにより、CPUコアはアプリケーション処理に専念できます。
コア単位のDVFS(動的電圧・周波数スケーリング)
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Cobalt 200の132個のコアはそれぞれ異なるパフォーマンスレベルで個別に動作可能です。必要なコアのみをフルパフォーマンスで動作させ、他のコアはアイドル状態に移行させることで、ワークロード特性に応じた電力最適化を実現しています。
これはクラウド環境において重要なポイントです。仮想マシンの負荷は常に一定ではないため、瞬時に電力配分を最適化できる機構は、コスト効率とパフォーマンスの両立に貢献します。
セキュリティ機能の強化

ARM Confidential Compute Architecture(CCA)
Cobalt 200はARM CCAをネイティブサポートしています。これにより、ハイパーバイザやホストOSからアクセス不可能なメモリ隔離ドメイン(Realm)を作成できます。
仮想マシンのメモリをハードウェアレベルで保護し、ハイパーバイザへの攻撃があっても影響範囲を限定できます。マルチテナント環境のクラウドにおいて、これは強力なセキュリティ保証となります。
統合Hardware Security Module
Cobalt 200サーバーにはAzure Integrated Hardware Security Moduleが組み込まれています。FIPS 140-3 Level 3準拠(NISTの最高レベル認証)で、暗号化キーの安全な生成・保管・運用を実現します。
外部HSMへのネットワーク通信が不要なため、レイテンシも低減されます。
競合との比較
Cobalt 200を競合するクラウド向けARMプロセッサと比較すると、その優位性が見えてきます。
Cobalt 200は132コア、Neoverse V3、TSMC 3nm、L2キャッシュ3MB/コア、L3キャッシュ192MBという構成です。これに対してAmazon Graviton4は96コア、Neoverse V2、TSMC 5nm、L2キャッシュ2MB/コア、L3キャッシュ36MBとなっています。NVIDIA Grace(単独)は72コア、Neoverse V2、TSMC 5nm、L2キャッシュ1MB/コア、L3キャッシュ117MBです。
コア数とキャッシュ容量において、Cobalt 200は明確な優位性を持っています。
私の見解
Cobalt 200で最も印象的なのは、「実際のワークロードから逆算した設計」というアプローチです。
従来のCPU設計は「汎用的なベンチマークで良いスコアを出す」ことが目標になりがちでした。しかしMicrosoftは「Azureで実際に動くワークロードで良い性能を出す」という目標を設定し、そのために140種類のカスタムベンチマークを開発しました。
これはAWSがGravitonシリーズで取っているアプローチとも通じるものがあります。クラウドベンダーが自社のワークロードに最適化したプロセッサを設計する時代が本格化しています。
2026年からの顧客利用開始が予定されていますが、Azure上のワークロードにおいてどの程度の実効性能向上が得られるか、注目していきたいところです。
まとめ
Azure Cobalt 200は、デジタルツイン設計という新しいアプローチで開発された第二世代ARMプロセッサです。
- 35万通りの設計候補をシミュレーションして最適化
- 132コア、TSMC 3nm、先代比50%の性能向上
- クラウドワークロードに特化した圧縮・暗号化アクセラレータ
- ARM CCAによるハードウェアレベルのセキュリティ
- 2026年から顧客利用開始予定
クラウドインフラの競争がハードウェアレイヤーにまで拡大していることを象徴する製品です。













