Agent Focusとは何か エージェント時代に生まれた新しいビュー
ソフトウェア開発の現場では、人がコードを一行ずつ書く時代から、AIエージェントに作業を任せ、開発者がその進行を導く時代へと移り変わりつつあります。こうした変化を正面から受け止めて設計されたのが、Kiro IDEに搭載されたAgent Focus(Agent Focus Mode)です。これはエージェントを日常的に指揮する開発者に向けて、チャットを中心に据えたレイアウトを提供する新しいビューです。
Agent FocusはKiro公式ドキュメントにおいて、現時点では実験的(experimental)な機能と位置づけられています。インターフェースや挙動は今後変わりうるため、本記事で紹介する内容も将来更新される可能性がある点を、あらかじめご理解ください。それでも、エージェント駆動の開発がどこへ向かうのかを示す具体的な一例として、注目に値する取り組みだと言えます。
この機能はKiro IDE 1.0に同梱されています。1.0は2026年6月25日に公開されました。これまでコードエディタを主役としてきたIDEが、エージェントとの対話を主役に据えるという発想は、開発体験そのものを問い直すものです。Agent Focusは、その問い直しを実際の画面として形にした試みなのです。
従来のIDEとの違い コード中心からチャット中心へ
従来のIDEは、ファイルツリーとコードエディタを画面の中心に置き、開発者が自らキーボードでコードを編集することを前提に設計されてきました。補完や検索、デバッガといった機能はすべて、人が手を動かして書くという行為を支援するために配置されています。これはコードを書く主体が人間であるという前提に立った、コード中心の世界観です。
これに対してAgent Focusは、操作の主役をチャットへと移します。開発者はやりたいことを言葉でエージェントに伝え、エージェントが実際の変更を進め、その結果を確認しながら次の指示を出していきます。コードを直接タイプする時間よりも、エージェントとの対話に時間を費やすという、チャット中心(chat-first)の働き方を前提にしているのです。
ここで誤解を避けたいのは、Agent Focusが従来のEditor View(IDE)を置き換えるものではないという点です。両者は役割を分担しながら共存します。画面右上のトグルでAgent FocusとEditor Viewはいつでも行き来でき、両ビューは同時に動作します。片方で始めた作業はもう片方でも継続できるため、開発者は局面に応じて最適なビューを選びながら作業を進められます。
Agent Focusの画面構成と実際のワークフロー

Agent Focusの画面は3つのパネルで構成されています。左にはSessions、中央にはChat、右にはAuxiliaryが配置され、それぞれが役割を分担しています。この構成を理解することが、Agent Focusを使いこなす第一歩になります。
パネル | 位置 | 役割 |
|---|---|---|
Sessions | 左 | セッションを起動し、その状態を監視する場所です |
Chat | 中央 | 主要な操作面であり、コード差分はインラインdiffとして表示されます |
Auxiliary | 右 | specやdiff、成果物を表示する補助パネルです |
左のSessionsパネルでは、複数のセッションを並べて起動し、それぞれの進み具合を一覧で監視できます。中央のChatパネルが日々の作業の中心であり、エージェントとのやり取りはここで進みます。エージェントが提案したコードの変更は、チャットの流れの中にインラインdiffとして表示されるため、文脈を見失うことなく差分を確認できます。右のAuxiliaryパネルは補助的な表示領域で、specやdiff、生成された成果物を映し出します。
セッションの状態は3つのラベルで一目で把握できるよう工夫されています。Spinningはエージェントが稼働中であることを表します。Warningはツールの承認や確認など、開発者からの入力を待っている状態を示します。Pausedはアイドルで、次のメッセージを待っている状態を意味します。複数のセッションを並行して走らせていても、これらのラベルを見れば、どのセッションが手を必要としているのかがすぐに分かります。
新規にセッションを作成する際には、構造化されたワークフローを選べます。Specは構造化された機能開発を進めるためのもの、Planはコードを変更せずに実装計画へ分解するためのもの、Bug Fixは調査から診断、解決までを順に進めるためのもの、Quick Specは要件を明確化したうえで要件と設計、タスクを自動生成するためのものです。これらを使わず、フリーフォームのチャットから始めることもできるため、作業の性質に合わせて入り口を選べます。
エージェントを導くという新しい働き方

Agent Focusが象徴しているのは、開発者の役割が「自ら書く人」から「エージェントを導く人」へと変わっていくという変化です。開発者はゴールと方針を言葉で示し、エージェントが具体的な実装を進め、その結果を吟味して軌道を修正する、という循環を回していきます。手を動かす作業の多くをエージェントに委ね、人は判断と方向づけに集中するという分担です。
この働き方では、複数のセッションを同時に走らせる場面も増えていきます。あるセッションがSpinningで作業を進めている間に、別のセッションのWarningに応えて承認を返し、Pausedのセッションには次の指示を出す、といった並行作業が自然になります。Agent Focusの3パネル構成と状態ラベルは、まさにこうした複数エージェントの同時進行を見渡しやすくするために設計されています。
もっとも、すべての操作がAgent Focusの中で完結するわけではありません。設定の変更、powersとskillsの管理、MCPサーバーの管理、ターミナルの利用、フルなGitワークフロー、ファイルの直接編集などは、従来のEditor View(IDE)に戻って行います。だからこそ両ビューをいつでも行き来でき、同時に動作するという設計が活きてきます。エージェントを導く局面ではAgent Focusを、細かな手作業が必要な局面ではEditor Viewを、という使い分けが可能になるのです。
繰り返しになりますが、Agent Focusは実験的な機能であり、その姿は今後変わっていく可能性があります。それでも、エージェントを中心に据えた開発がどのような画面と操作で成り立つのかを、開発者が手元で体験できる意義は小さくありません。新しい働き方を頭で理解するだけでなく、実際に試しながら身につけていける点が、この機能の価値だと言えるでしょう。
Ragateが実践するエージェント駆動開発との接続
こうしたエージェントを導く働き方は、すでに現場で実践され始めています。Ragate株式会社は2017年に設立されたIT/DXコンサルティング企業で、代表は益子竜与志氏が務めています。同社はAWS Top Engineers 2024に選出されており、クラウドとAIの実装力を強みとしています。
Ragateは社内でAIエージェント「OpenClaw」を2026年3月から運用しています。OpenClawはSlackやAsana、Google Workspace、MicroCMSをまたいだタスクを自動化しており、人がコードや手順を一つずつ実行するのではなく、エージェントに目的を伝えて遂行させる体制が日常的に機能しています。これはまさに、人がコードを一行ずつ書くよりもエージェントを導くという働き方が、実務として成立している一例です。
同社はサービスとして、AX戦略の支援、MVPのバイブコーディング(AI駆動開発)、AWSサーバーレスでのクラウドマイグレーション伴走を提供しています。いずれもAIエージェントを前提に開発と運用を組み立てる発想と地続きであり、エージェントに作業を委ねながら人が方向づけを担うスタイルが根づいています。
Agent Focusが体現するチャット中心の開発UIは、このようなエージェント駆動の現場と親和性が高いものです。複数のエージェントを並行して走らせ、その状態を見渡しながら指示を出すという操作感は、OpenClawを軸に業務を回すRagateの実践と発想を共有しています。製品の保証や提携を述べるものではありませんが、エージェントを導く開発がどこへ向かうのかを考えるうえで、両者は同じ方向を見ていると言えるでしょう。
まとめ
Kiro IDEのAgent Focusは、Kiro IDE 1.0に同梱された実験的なビューで、エージェントを日常的に指揮する開発者に向けてチャット中心のレイアウトを提供します。左のSessions、中央のChat、右のAuxiliaryという3パネル構成と、Spinning、Warning、Pausedという状態ラベルによって、複数のエージェントの進行を見渡しやすくしています。
設定やGitワークフロー、ファイルの直接編集などは従来のEditor Viewで行い、画面右上のトグルで両ビューをいつでも行き来できます。両ビューは同時に動作するため、局面に応じた使い分けが可能です。SpecやPlan、Bug Fix、Quick Specといった構造化ワークフローを入り口に選べる点も、エージェントを導く作業を後押しします。
実験的な機能であるため今後の変化はあり得ますが、Agent Focusはエージェント時代の開発スタイルを具体的な画面として示してくれます。OpenClawを運用するRagateのような現場と発想を共有するこの新しいUIを、ぜひ一度ご自身の手で体験してみてください。

















