OSAIDとは何か

OSAIDは「オープンソースAI」を名乗るための技術的要件を定めた定義です。従来のオープンソースソフトウェア(OSS)と同様に、4つの自由を保障することを求めています。
使用の自由として、目的を問わずAIシステムを使用できること。
研究の自由として、システムがどのように動作するかを調べられること。
改変の自由として、任意の目的のためにシステムを変更できること。
共有の自由として、変更の有無を問わず他者とシステムを共有できること。
これ自体は従来のOSSと同じ考え方です。問題は「AIでこれらの自由をどう保証するか」という点でした。

技術的要件
OSAIDでは、4つの自由を保障するために以下の情報開示を求めています。
必須開示項目
モデル・アーキテクチャの完全な詳細 | ニューラルネットワークの構造、レイヤー数、パラメータ数などの技術仕様が必要 |
|---|---|
パラメータ(重み) | 推論と研究のために十分なモデルパラメータを提供する必要がある |
学習データの透明性 | データ構成、収集方法、処理パイプラインの詳細が求められます。ただし、生データそのものの公開は必須ではない |
学習コードとハイパーパラメータ | 同等のシステムを再構築するために十分な情報を提供する必要がある |
重要なポイント
OSAIDは「生データの公開」を必須としていません。これは現実的な判断です。学習データには著作権や個人情報の問題が絡むため、生データ公開を必須にすると事実上誰もオープンソースAIを作れなくなってしまいます。
代わりに「データの透明性」を求めています。どのようなデータで、どのように学習したかを説明できればOKという考え方です。

なぜこれが重要なのか
OSAIDの登場により、開発者には以下の変化が訪れます。
1. 「オープンソースAI」の見分け方が明確に
これまで「オープンソース」を名乗るAIモデルは玉石混交でした。Meta LLaMAは商用利用に制限があり、Mistralはパラメータ公開のみ。「本当にオープンなのか?」が分かりにくい状況でした。
OSAIDに準拠しているかどうかで、そのモデルを本当に自由に使えるかが判断できるようになります。
2. 独自モデル構築のハードルが下がる
OSAIDに準拠したモデルは、学習コードとハイパーパラメータも公開されます。つまり、そのモデルをベースにファインチューニングしたり、アーキテクチャを参考に独自モデルを作ったりすることが容易になります。
3. 調達・契約時の判断基準に
エンタープライズでAIを導入する際、「オープンソースAI」を選ぶかどうかはコスト、ベンダーロックイン、セキュリティなど多くの要素に影響します。OSAIDが調達基準として使われるようになれば、技術選定がシンプルになります。
OSG-JPの提言内容
OSG-JPが2025年11月に発表した提言では、以下の3点が強調されています。
政府調達でのOSAIDモデル活用促進として、日本政府がAIシステムを調達する際、OSAID準拠モデルを優先的に採用することを求めています。
研究開発投資の重点化として、国内でOSAID準拠のオープンソースAIを開発する取り組みへの投資を呼びかけています。
国際連携として、OSAID策定に参加した各国機関との連携を強化し、日本発のオープンソースAI開発を促進することを提言しています。
現状の課題
OSAIDには批判もあります。
学習データ問題 | データの透明性だけで十分なのかという議論有り。再現性を完全に保証するには生データが必要という意見も根強い |
|---|---|
大規模モデルの現実性 | GPT-4クラスのモデルを真にオープンソースにするには膨大な計算資源が必要で、現実的かどうかという疑問がある |
ライセンスとの整合性 | OSI承認ライセンスとAIの複合的な権利関係(データ、モデル、生成物)をどう整理するかは未解決の課題 |
私の見解
OSAIDは「完璧な定義」ではありませんが、「最初の一歩」として意義があると考えています。
これまで「オープンソースAI」は各社・各プロジェクトが好き勝手に名乗っていました。開発者からすると、ライセンスを読み込まないと本当に使えるかどうか分からない状態でした。
OSAIDがあれば、最低限「この条件を満たしていればオープンソースAI」という共通認識が生まれます。これは技術選定の時間短縮に直結します。
また、日本がOSAIDを政策に組み込むことで、国内のAI開発がガラパゴス化するリスクを減らせる可能性があります。国際基準に沿ったオープンなAI開発を推進することで、グローバルなエコシステムとの接続性が保たれます。
まとめ
オープンソースAI定義(OSAID)の登場により、以下の変化が期待されます。
- 「オープンソースAI」の技術的要件が明確化
- 生データ公開不要で「データ透明性」を重視
- モデル選定・調達の判断基準として機能
- 日本のAI政策にも組み込みが提言される
開発者としては、新しいモデルを評価する際に「OSAID準拠かどうか」をチェック項目に加えておくことをお勧めします。













