生成AI導入の「意思決定者」が直面する現実
生成AIの普及が進む中、企業の情報システム部やDX推進室は、その導入・活用推進の中核を担っています。しかし、意思決定に関わる立場だからこそ見える課題や障壁も存在します。
本レポートでは、Ragate株式会社が2025年12月に実施した独自調査の結果をもとに、生成AI導入の意思決定者505名が感じている課題と今後の展望を詳しく解説します。情報システム部・DX推進室の担当者として、自社の生成AI戦略を考える際のヒントをお伝えします。
導入推進を阻む3大課題

課題・障壁の実態
生成AIの導入・活用推進において、課題や障壁と感じていることを複数回答で調査しました。(n=455)
順位 | 課題・障壁 | 回答率 |
|---|---|---|
1位 | 出力精度の不確実性(ハルシネーション)への懸念 | 50.3% |
2位 | 情報漏洩・セキュリティリスクへの懸念 | 48.8% |
3位 | 著作権・コンプライアンスに関する法的な懸念 | 39.1% |
4位 | 導入・運用にかかるコストが見合わない | 31.0% |
4位 | 従業員のリテラシー・スキル不足 | 31.0% |
6位 | 費用対効果(ROI)の算出や評価が難しい | 28.6% |
7位 | 社内ルールやガイドラインの策定が追いついていない | 22.6% |
8位 | 既存システムとの連携が技術的に難しい | 17.1% |
9位 | 経営層や現場の理解が得られない | 6.8% |
ハルシネーション・セキュリティ・法的リスクが上位に
最大の課題は「出力精度の不確実性(ハルシネーション)への懸念」(50.3%)です。生成AIが事実と異なる情報を出力するリスクは、業務で活用する上で最も慎重に対処すべき問題として認識されています。 「情報漏洩・セキュリティリスク」(48.8%)も僅差で2位となっており、機密情報の流出や不正アクセスへの懸念が根強いことが分かります。意思決定者として、技術的なリスク管理だけでなく、組織全体のセキュリティポリシーとの整合性を取る必要があることが背景にあります。 「著作権・コンプライアンス」(39.1%)も4割近くが課題として挙げており、法的リスクへの対応も重要な検討事項となっています。
活用が進む業務領域TOP7

生成AI活用領域の実態
勤務先で生成AIを活用している、または活用を検討している業務領域を複数回答で調査しました。(n=455)
順位 | 活用領域 | 回答率 |
|---|---|---|
1位 | 情報収集・調査・分析(市場調査、データ分析、要約など) | 57.1% |
2位 | システム開発・運用(コード生成、デバッグ、ドキュメント作成など) | 53.8% |
3位 | 社内問い合わせ対応・ヘルプデスク | 52.3% |
4位 | コンテンツ作成・編集(メール、日報、プレゼン資料など) | 43.5% |
5位 | 議事録作成・要約(会議音声の文字起こし、要点整理など) | 38.7% |
6位 | クリエイティブ生成(画像、動画、デザイン案など) | 30.1% |
7位 | 翻訳・外国語対応 | 20.0% |
情報収集・システム開発・ヘルプデスクが三大活用領域
「情報収集・調査・分析」が57.1%でトップとなり、市場調査やデータ分析の効率化に生成AIが活用されていることが分かります。意思決定者にとって、戦略立案に必要な情報収集を効率化できる点は大きな価値です。 「システム開発・運用」(53.8%)も半数以上が活用・検討しており、情報システム部の本業であるシステム開発領域でも生成AIの活用が進んでいます。コード生成やドキュメント作成の効率化により、開発生産性の向上が期待されています。 「社内問い合わせ対応・ヘルプデスク」(52.3%)も上位にランクインし、社内からの問い合わせ対応の効率化にAIチャットボットが活用されている実態が見えます。
今後の予算・投資計画:61%が拡大を見込む

予算動向の見通し
今後の生成AI関連の予算や投資計画について調査しました。(n=455)
予算・投資計画 | 割合 |
|---|---|
今後、予算・投資を大幅に拡大する予定 | 23.1% |
今後、予算・投資をある程度拡大する予定 | 38.0% |
現状維持(現在の予算規模を継続) | 22.9% |
費用対効果を見極めつつ、縮小も検討 | 4.8% |
予算・投資を縮小、または撤退する予定 | 0.7% |
現時点では未定/わからない | 10.5% |
拡大傾向が明確、縮小はわずか1%未満
「大幅に拡大」「ある程度拡大」を合わせると61.1%が予算拡大を見込んでいることが分かります。生成AIへの投資は一時的なブームではなく、継続的に拡大していく傾向が明確です。
特に注目すべきは、「縮小・撤退」と回答した割合がわずか0.7%に過ぎない点です。費用対効果の見極めは続けながらも、生成AIから撤退する企業はほとんどないことが示されています。
「現状維持」は22.9%となっており、すでに一定の投資を行った上で効果を検証しながら次の投資判断を行う段階の企業も存在します。
利用ツールの現状:ChatGPTが圧倒的シェア

業務利用ツールの実態
現在業務利用している生成AI関連ツール・サービスを複数回答で調査しました。(n=409)
順位 | ツール・サービス | 回答率 |
|---|---|---|
1位 | OpenAI ChatGPT | 57.9% |
2位 | Copilot for Microsoft 365 | 53.5% |
3位 | Google Gemini | 46.7% |
4位 | Anthropic Claude | 16.4% |
5位 | Perplexity | 13.9% |
6位 | Azure OpenAI Service | 11.2% |
7位 | Google Vertex AI | 13.2% |
8位 | GitHub Copilot | 12.0% |
9位 | Power Automate | 12.0% |
10位 | Dify | 11.2% |
ChatGPT・Copilot・Geminiが主流
「ChatGPT」が57.9%で最も多く利用されており、生成AIの代名詞的存在として企業での利用が最も進んでいます。 「Copilot for Microsoft 365」(53.5%)も半数以上が利用しており、Microsoft 365との統合により業務での活用が進んでいることが分かります。既存の業務環境に組み込まれた形での生成AI活用が広がっています。 「Google Gemini」(46.7%)も約半数が利用しており、ChatGPT・Copilot・Geminiの「3大生成AIツール」が企業利用の主流となっていることが明確です。
意思決定者が取るべき3つのアクション
1. セキュリティ・ガイドラインの整備
情報漏洩リスク(48.8%)や法的懸念(39.1%)に対応するには、明確な利用ガイドラインの策定が不可欠です。どの情報を入力してよいか、出力結果をどう検証するかといったルールを明文化し、組織全体に周知することが重要です。
2. スキル向上施策の実施
従業員のリテラシー・スキル不足(31.0%)への対応として、プロンプトエンジニアリングを含む実践的な研修の実施が有効です。生成AIを効果的に活用するためのスキルを組織全体で底上げすることで、活用の質と量を向上させられます。
3. ROI評価の仕組み構築
費用対効果の評価が難しい(28.6%)という課題に対しては、生成AI活用による効果を定量的に測定する仕組みを構築することが重要です。作業時間の削減率やアウトプットの品質向上など、具体的なKPIを設定し継続的にモニタリングすることで、次の投資判断の根拠を得られます。
まとめ
本調査から、生成AI導入の意思決定者は明確な課題を認識しながらも、将来の予算拡大に期待を持っていることが明らかになりました。
- 3大課題は「ハルシネーション」「セキュリティ」「法的リスク」
- 活用領域は「情報収集」「システム開発」「ヘルプデスク」がTOP3
- 61%が予算拡大を見込み、縮小はわずか0.7%
- ChatGPT・Copilot・Geminiが企業利用の主流
61%が予算拡大を見込む追い風の中、セキュリティやガイドライン整備といった課題を着実に解決しながら、生成AI活用を推進していくことが求められています。
Ragate株式会社では、「生成AI開発内製化と継続的リスキリング・組織定着化」サービスを提供しています。AWS FTR認定を取得した専門チームが、生成AI活用のガイドライン策定から、プロンプトエンジニアリング研修、内製化支援まで一貫してサポート。情報システム部・DX推進室の生成AI活用推進を伴走支援します。















