AWS Transform for MainframeでCOBOL移行を自動化する方法
「COBOLのコードを誰がメンテナンスするのか」—— これは多くの企業が直面している切実な問題です。金融機関や保険会社では、数十年前に書かれたCOBOLプログラムが今なお基幹システムの中核を担っています。しかし、COBOLを読み書きできるエンジニアは年々減少しており、レガシーシステムのモダナイゼーションは避けて通れない課題となっています。AWS Transform for Mainframeは、AIを活用してCOBOLからJavaへの移行を自動化する新しいアプローチを提供しています。
メインフレーム移行が難しい理由
COBOLで書かれたプログラムは、単純にJavaに翻訳すれば動くというものではありません。COBOLには独特のデータ型システムがあり、固定小数点演算やファイル操作において現代のプログラミング言語とは異なる動作をします。たとえば、COBOLのPIC句(Picture Clause)で定義されるデータ型は、桁数や小数点位置が厳密に指定されており、これをJavaの型に正確にマッピングするには細心の注意が必要です。

さらに厄介なのは、長年の運用の中で蓄積された「暗黙のビジネスロジック」です。ドキュメントが存在しない、あるいは現実のコードと乖離しているケースも珍しくありません。なぜそのような実装になっているのか、当時の開発者が退職してしまい誰も説明できないという状況は、多くの現場で見られます。
また、CICSやIMSといったミドルウェアとの連携も考慮する必要があります。これらのミドルウェアはメインフレーム環境特有のもので、クラウド環境への移行時には代替手段を検討しなければなりません。
Reimagine機能の仕組み
AWS Transform for Mainframeの中核となるのが「Reimagine」機能です。これはAmazon Qの技術を活用して、COBOLコードをJavaに自動変換するエンジンです。単純な構文変換だけでなく、データ依存関係の分析やビジネスロジックの抽出も行います。
変換プロセスは以下のステップで進みます。まず、ソースコードの構文解析が行われ、COBOLのDIVISION構造を解析して抽象構文木(AST)を構築します。次に、データ構造のマッピングが行われ、COBOLのPIC句で定義されたデータ型を適切なJavaの型に変換します。
interface CobolDataTypeMapping {
cobolPic: string;
javaType: string;
conversionNote: string;
}
const mappings: CobolDataTypeMapping[] = [
{ cobolPic: 'PIC 9(5)', javaType: 'int', conversionNote: '5桁整数' },
{ cobolPic: 'PIC 9(5)V99', javaType: 'BigDecimal', conversionNote: '小数点2桁' },
{ cobolPic: 'PIC X(20)', javaType: 'String', conversionNote: '20文字固定長' },
{ cobolPic: 'PIC S9(9) COMP', javaType: 'int', conversionNote: 'バイナリ形式' }
];特に注目すべきは、変換後のコードが「人間が読めるJava」になるという点です。機械的に生成された難読コードではなく、保守可能なコードを目指しています。変数名やメソッド名も、元のCOBOLプログラムの意図を反映した適切な命名がなされます。
マイクロサービス分割の考え方
Transform for Mainframeのもう一つの強力な機能が、マイクロサービス分割の支援です。長年運用されてきたモノリシックなCOBOLプログラムを、適切な粒度のマイクロサービスに分割するのは容易ではありません。サービスは、データの凝集度とビジネス機能の境界に基づいて分割を提案します。

分割の基準となるのは、データアクセスパターン、呼び出し頻度、ビジネスドメイン、変更頻度といった指標です。たとえば、顧客管理、注文処理、在庫管理といったドメイン単位での分割が一般的です。同じデータを頻繁に参照するプログラム群はまとめ、密結合しているモジュールを特定することで、適切なサービス境界を見極めることができます。
自動テスト生成機能
変換されたコードが正しく動作することを確認するには、テストが不可欠です。Transform for Mainframeは、変換後のJavaコードに対するテストケースを自動生成する機能も提供しています。既存のテストデータを活用したテストケース生成、境界値テストやエッジケースの自動生成、そしてCOBOLとJavaの両方を実行して結果を比較する「等価性テスト」の設定が可能です。
等価性テストは特に重要で、同じ入力に対してCOBOLプログラムとJavaプログラムが同じ出力を返すことを確認することで、変換の正確性を検証できます。
現実的な移行ステップ
AWS Transform for Mainframeを活用した移行プロジェクトは、段階的に進めるのが現実的です。一気にすべてを移行しようとするのではなく、リスクを最小化しながら着実に進めることが成功の鍵となります。

- フェーズ1:アセスメント(2-4週間) - 既存のCOBOLコードベースを分析し、コードの複雑さ、依存関係、変換難易度を可視化します
- フェーズ2:パイロット変換(4-8週間) - 比較的シンプルなプログラムを選んでパイロット変換を実施し、テストプロセスを確立します
- フェーズ3:段階的移行(数ヶ月〜数年) - マイクロサービス単位で変換・テスト・デプロイを繰り返し、徐々にメインフレームの負荷を減らしていきます
- フェーズ4:メインフレーム停止 - すべてのワークロードがクラウドに移行したら、一定期間の並行稼働を経てメインフレームを停止します
まとめ
AWS Transform for Mainframeは、これまで人手に頼るしかなかったメインフレーム移行に、AIによる自動化という新しい選択肢を提供しています。ただし、すべてが自動で完結するわけではありません。複雑なビジネスロジックの検証やパフォーマンスチューニングは依然として人間の判断が必要です。このサービスは「魔法の杖」ではなく、「強力なツール」として捉えるべきでしょう。メインフレームの老朽化とCOBOL技術者の減少は、多くの企業にとって時間との戦いです。レガシーモダナイゼーションを検討している方は、ぜひ評価してみてください。














