Amazon ECS設計ガイド 2025年版 - EC2からの移行とコンテナ化戦略の最新ベストプラクティス
コンテナオーケストレーションの進化とECSの現在地
2025年の今、コンテナオーケストレーションは単なる「流行り」から「標準的なアーキテクチャパターン」へと進化を遂げています。Amazon ECSは、AWS独自のコンテナオーケストレーションサービスとして、Kubernetesとは異なるアプローチで「シンプルさ」と「AWSサービスとの深い統合」を武器に、多くの企業で採用されています。
特筆すべきは、ECS自体は「追加料金なし」で利用できる点です。課金対象となるのは、EC2インスタンス、Fargateのコンピューティングリソース、Application Load Balancer、ECR、CloudWatchなどの周辺リソースのみです。この料金体系により、コンテナオーケストレーションの導入障壁が大幅に下がり、小規模なプロジェクトから大規模なエンタープライズまで、幅広い用途で活用されています。
最新のアップデートとして、2025年7月に発表されたECSネイティブのブルー/グリーンデプロイメントは、従来のCodeDeploy連携に加えて、ECS単体で段階的なトラフィック切り替えや自動ロールバックを実現できるようになりました。これにより、CI/CDパイプラインの構築がさらにシンプルになり、デプロイメントの信頼性も向上しています。
EC2からECSへ移行する本質的な価値
インフラストラクチャ管理の抽象化レベルの違い
EC2インスタンスでアプリケーションを運用する場合、OSレベルのパッチ管理、カーネルパラメータのチューニング、ミドルウェアの設定など、多岐にわたる管理タスクが発生します。一方、ECSではこれらの管理タスクの多くがAWSによって抽象化され、開発者はアプリケーションロジックに集中できるようになります。
ただし、完全な抽象化ではないことも理解しておく必要があります。EC2起動タイプを選択した場合は、依然としてホストOSの管理が必要ですし、Fargateを選択した場合でも、タスク定義の最適化やネットワーク設計など、コンテナオーケストレーション特有の設計スキルが求められます。
デプロイメント戦略の進化
従来のEC2環境では、Blue/Greenデプロイメントを実現するために、複雑なスクリプトやサードパーティツールを組み合わせる必要がありました。ECSでは、Circuit Breaker機能を備えたローリングアップデートがデフォルトで提供され、デプロイ失敗時の自動ロールバックが標準機能として利用できます。
さらに、2025年7月に追加されたECSネイティブのBlue/Greenデプロイメントにより、以下のような高度なデプロイメント戦略が簡単に実現できるようになりました。
デプロイメント戦略の選択肢は以下の通りです。
- ローリングアップデート(Circuit Breaker付き)で素早いデプロイと自動ロールバック
- ECSネイティブBlue/Greenで段階的なトラフィック切り替えとベイク時間の設定
- CodeDeploy連携Blue/Greenで既存のCI/CDパイプラインとの統合
ECS設計の前提知識:正しい構成要素の理解
タスク定義の本質を理解する
ECSにおける「タスク定義」は、「1つ以上のコンテナ」を含む実行単位です。よくある誤解として「1タスク定義=1コンテナ」と理解されがちですが、実際には複数のコンテナを1つのタスク定義に含めることができます。
例えば、メインのアプリケーションコンテナに加えて、ログ収集用のサイドカーコンテナ、メトリクス収集用のコンテナなどを同一タスク内で実行することが一般的です。これらのコンテナは同じネットワークネームスペースを共有し、localhostで相互通信が可能です。
タスク定義における設計のポイントとして、以下の観点を考慮する必要があります。
- デプロイの同時性が必要なコンテナは同一タスクに含める
- 独立してスケールする必要があるコンポーネントは別サービスとして分離する
- リソース(CPU/メモリ)の割り当ては、すべてのコンテナの合計値を考慮する
セキュリティグループの適用単位
「awsvpc」ネットワークモード(Fargateでは必須)を使用する場合、セキュリティグループは「タスク(ENI)単位」で適用されます。つまり、個別のコンテナごとにセキュリティグループを設定することはできず、タスク内のすべてのコンテナが同一のセキュリティグループを共有します。
この制約を理解した上で、マイクロサービス間の通信制御を設計する必要があります。サービス間の細かいアクセス制御が必要な場合は、Service ConnectやVPC Latticeを活用することで、より柔軟なサービスメッシュを構築できます。
ストレージの選択肢と制約
Fargateタスクのエフェメラルストレージは、デフォルトで20GiBですが、最大200GiBまで拡張可能です。タスク定義のephemeralStorage
パラメータで設定できます。ただし、エフェメラルストレージはタスクの終了とともに削除されるため、永続化が必要なデータにはEFSやS3を併用する設計が必要です。
2025年版:ECS設計のベストプラクティス
アプリケーションのコンテナ化戦略
マイクロサービスへの分割粒度
EC2環境でモノリシックに構築されたアプリケーションをECSに移行する際、どの程度の粒度でマイクロサービスに分割するかは重要な設計判断です。過度な分割は運用の複雑性を増し、粗すぎる分割はコンテナ化のメリットを享受できません。
実践的なアプローチとして、「ビジネスケイパビリティ」と「データの凝集性」を基準に分割することを推奨します。例えば、ECサイトであれば「商品カタログ」「カート」「決済」「配送」といった単位で分割し、それぞれが独自のデータストアを持つ設計とします。
コンテナイメージの最適化
コンテナイメージのサイズは、デプロイ速度、ECRのストレージコスト、起動時間に直接影響します。ECRの拡張スキャン(Inspector連携)を活用することで、OS層とアプリケーション層の両方の脆弱性を継続的に監視できます。
イメージ最適化のテクニックとして、以下のアプローチが効果的です。
- マルチステージビルドを活用し、ビルド時の依存関係を実行イメージから除外する
- Alpine LinuxやDistrolessイメージなど、軽量なベースイメージを選択する
- 不要なパッケージやファイルを削除し、攻撃対象領域を最小化する
タスク定義の最適化
リソース割り当ての科学的アプローチ
タスク定義でCPUとメモリを設定する際、「とりあえず大きめに設定しておこう」という判断は避けるべきです。過剰なリソース割り当ては、Fargateの場合は直接的なコスト増加につながり、EC2起動タイプの場合はビンパッキングの効率が悪化します。
実際のワークロードをプロファイリングし、以下の手順でリソースを最適化することを推奨します。
- 開発環境で負荷テストを実施し、ピーク時のCPU/メモリ使用率を測定する
- CloudWatch Container Insightsでリアルタイムのメトリクスを監視する
- Application Auto Scalingのターゲットトラッキングで、CPU使用率70%程度を目標に設定する
- 定期的にリソース使用状況をレビューし、必要に応じて調整する
GPUワークロードへの対応
機械学習やビデオ処理などのGPUワークロードは、現時点ではFargateではサポートされていません。EC2起動タイプでGPU最適化AMIを使用する必要があります。
GPUワークロードをECSで実行する場合の設計ポイントとして、以下を考慮してください。
- GPUインスタンスは高額なため、スポットインスタンスの活用を検討する
- タスクプレースメント戦略で、GPUインスタンスへの配置を制御する
- GPUメモリの使用状況を監視し、OOM(Out of Memory)エラーを防ぐ
サービス設計と可用性戦略
デプロイメント戦略の選択
2025年時点で、ECSは以下の3つの主要なデプロイメント戦略を提供しています。
表 ECSデプロイメント戦略の比較
デプロイメント戦略 | 導入の容易さ | ロールバック速度 | リソース効率 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
ローリングアップデート(Circuit Breaker付き) | 高 | 中 | 高 | 一般的なWebアプリケーション |
ECSネイティブBlue/Green | 中 | 高 | 低 | ミッションクリティカルなサービス |
CodeDeploy連携Blue/Green | 低 | 高 | 低 | 既存CI/CDパイプラインとの統合 |
各戦略の選択基準は、サービスの重要度、許容できるダウンタイム、リソースコストのバランスで決定します。例えば、社内向けの管理画面であればローリングアップデートで十分ですが、決済システムのような重要なサービスではBlue/Greenデプロイメントを選択すべきです。
タスクスケールイン保護の活用
2024年に発表されたタスクスケールイン保護機能により、長時間実行されるタスクや重要な処理を実行中のタスクが、スケールイン時に強制終了されることを防げるようになりました。
この機能の実践的な活用例として、以下のようなケースがあります。
- バッチ処理やキュー処理を実行するワーカータスクの保護
- WebSocketやServer-Sent Eventsなど、長時間の接続を維持するタスクの保護
- データベースマイグレーションなど、中断できない処理を実行するタスクの保護
ネットワーク設計の最新アプローチ
Service Connectによるサービスメッシュの実現
Service Connectは、ECSサービス間の通信を簡素化し、観測性を向上させる機能です。特筆すべきは、Service Connect経由でCloud Mapを使用する場合、「追加料金が発生しない」点です。
Service Connectを活用することで、以下のメリットを享受できます。
- サービス間の通信を短縮名(例:
http://backend:8080
)で実現 - 自動的なリトライ、タイムアウト、サーキットブレーカーの設定
- サービス間通信のメトリクスとログの標準化
VPC Latticeとの連携
複数のVPCやAWSアカウントをまたがるマイクロサービス間通信が必要な場合、VPC Latticeとの連携が有効です。Service ConnectとVPC Latticeを組み合わせることで、複雑なネットワークトポロジーを抽象化し、開発者はサービス間の論理的な接続のみに集中できます。
観測性とトラブルシューティング
Container InsightsとADOTの使い分け
CloudWatch Container Insightsは、ECSクラスター、サービス、タスクレベルのメトリクスを自動的に収集し、ダッシュボードで可視化します。一方、AWS Distro for OpenTelemetry (ADOT)は、より詳細な分散トレーシングやカスタムメトリクスの収集に適しています。
実践的な使い分けとして、以下のアプローチを推奨します。
- Container Insightsで基本的なリソース使用状況とパフォーマンスを監視
- ADOTで詳細な分散トレーシングとアプリケーションレベルのメトリクスを収集
- FireLensを使用してログを外部のSIEMやログ分析基盤に転送
ECS Execによる安全なデバッグ
ECS Execは、Systems Manager Session Managerを使用して、実行中のコンテナに安全にアクセスする機能です。従来のSSHアクセスと異なり、以下の利点があります。
- IAMポリシーによる細かいアクセス制御が可能
- CloudTrailで全てのセッションが監査ログとして記録される
- KMS暗号化によるセッション内容の保護
ただし、本番環境でのECS Execの使用は「ブレークグラス」シナリオに限定し、通常のデバッグはログとメトリクスで行うことを原則とすべきです。
コスト最適化の実践テクニック
キャパシティプロバイダーの戦略的活用
キャパシティプロバイダーを活用することで、Fargate、Fargate Spot、EC2 Auto Scaling Groupを組み合わせた柔軟なリソース管理が可能です。
効果的な設定例として、以下のような配分を検討してください。
表 キャパシティプロバイダー戦略の例
ワークロードタイプ | Fargate | Fargate Spot | EC2 ASG | 理由 |
---|---|---|---|---|
プロダクションWeb | 70% | 30% | 0% | 可用性とコストのバランス |
バッチ処理 | 20% | 80% | 0% | 中断許容でコスト優先 |
機械学習ワークロード | 0% | 0% | 100% | GPU要件のため |
開発環境 | 0% | 100% | 0% | 最大限のコスト削減 |
Fargate Spot×Gravitonによるコスト削減
2024年9月から利用可能になったFargate SpotのGraviton対応により、最大でFargateオンデマンド価格の70%オフ、かつGravitonによる20%のパフォーマンス向上を同時に実現できるようになりました。
Graviton移行時の注意点として、以下を考慮する必要があります。
- アプリケーションのArm64対応(multi-archイメージの構築)
- サードパーティライブラリの互換性確認
- JVMベースのアプリケーションは、最新のCorrettoを使用することでGravitonの恩恵を最大化
料金計算の正確な理解
ECS自体は「追加料金なし」ですが、実際の運用コストは以下の要素から構成されます。
- Fargateのコンピューティング料金(vCPU/メモリの使用時間)
- EC2インスタンス料金(EC2起動タイプの場合)
- Application Load Balancerの料金
- ECRのストレージ料金とデータ転送料金
- CloudWatch Logsのログ保管料金
- NAT Gatewayやデータ転送料金
これらを総合的に考慮し、アーキテクチャ設計段階でコスト見積もりを行うことが重要です。
セキュリティベストプラクティス
IAMロールの適切な分離
ECSでは、「タスク実行ロール」と「タスクロール」の2種類のIAMロールが存在し、それぞれ異なる目的で使用されます。
タスク実行ロールは、ECSエージェントがタスクを起動するために必要な権限を定義します。具体的には以下の権限が含まれます。
- ECRからのイメージプル権限
- CloudWatch Logsへのログ書き込み権限
- Secrets ManagerやSSM Parameter Storeからのシークレット取得権限
一方、タスクロールは、コンテナ内で実行されるアプリケーションが使用する権限を定義します。S3へのアクセス、DynamoDBへの読み書き、他のAWSサービスの呼び出しなど、アプリケーション固有の権限を設定します。
この分離により、「最小権限の原則」を実現し、セキュリティリスクを低減できます。
シークレット管理のベストプラクティス
Secrets ManagerとSSM Parameter Storeを使用したシークレット注入により、データベースパスワードやAPIキーなどの機密情報を安全に管理できます。
実装時の重要なポイントとして、シークレットの更新時は「新しいタスクの起動」が必要であることを理解しておく必要があります。既存のタスクは古いシークレット値を保持し続けるため、強制的な再デプロイが必要です。
最新OSの活用
Amazon Linux 2023ベースのECS最適化AMIやBottlerocketを使用することで、セキュリティの強化と運用の簡素化を実現できます。
特にBottlerocketは、コンテナワークロードに特化した最小限のLinuxディストリビューションで、以下の特徴があります。
- イミュータブルなファイルシステムによる改ざん防止
- 自動アップデートとロールバック機能
- SELinuxによる強制アクセス制御
EC2からECS移行の段階的アプローチ
フェーズ1:アセスメントと計画
既存のEC2環境を詳細に分析し、移行計画を策定します。この段階で確認すべき項目は以下の通りです。
- アプリケーションの依存関係とデータフローの可視化
- ステートフルなコンポーネントの特定と分離戦略
- 必要なリソース(CPU/メモリ/ストレージ)の見積もり
- コンプライアンス要件とセキュリティ制約の確認
フェーズ2:パイロットプロジェクト
リスクの低い、影響範囲の限定的なアプリケーションから移行を開始します。このフェーズで得られた知見を、後続の移行に活かすことが重要です。
パイロットプロジェクトの選定基準として、以下の特徴を持つアプリケーションが適しています。
- ステートレスなWebアプリケーション
- 外部依存が少ない独立したサービス
- トラフィックが予測可能で、負荷変動が少ない
フェーズ3:段階的な本番移行
Blue/Greenデプロイメントやカナリアリリースを活用し、段階的にトラフィックをECS環境に切り替えていきます。この際、以下のメトリクスを継続的に監視します。
- レスポンスタイムとエラー率
- リソース使用率とコスト
- デプロイ頻度と成功率
フェーズ4:最適化と継続的改善
移行完了後も、継続的な最適化が必要です。CloudWatch Container InsightsやCost Explorerを活用し、定期的にパフォーマンスとコストを見直します。
まとめと今後の展望
Amazon ECSは、2025年現在も継続的に進化を続けており、コンテナオーケストレーションの選択肢として十分に成熟したサービスとなっています。特に、ECSネイティブのBlue/Greenデプロイメントの追加や、Fargate SpotのGraviton対応など、最新のアップデートにより、より柔軟で効率的なコンテナ運用が可能になりました。
EC2からECSへの移行は、単なるインフラの置き換えではなく、アプリケーションアーキテクチャの進化と運用プロセスの改善の機会として捉えるべきです。本記事で紹介したベストプラクティスを参考に、段階的かつ戦略的な移行を進めることで、クラウドネイティブアーキテクチャの恩恵を最大限に享受できるはずです。
今後もECSは進化を続け、さらなる機能強化が期待されます。特に、AI/MLワークロードへの対応強化、さらなるコスト最適化機能、開発者体験の向上などが注目されるところです。継続的な学習と実験を通じて、最新の機能を積極的に活用し、競争力のあるシステムを構築していくことが重要です。