背景と狙い
ノーコード/ローコードの文脈で「SageMaker Canvas」はデータ取り込みから前処理、学習、推論パイプラインの一部までを統合します。ただし、「どのデータソースにどう接続できるか」はサービスごとに要件が異なり、権限やネットワークの前提を外すと接続そのものが成立しません。本稿の狙いは、主要データソースの仕様と実務判断のポイントを、一次情報に基づいて素直にまとめることです
引用:データソースに接続する
Redshiftはプロビジョンドのみ、Snowflakeは結合やSQL編集を伴う取り込みに対応とドキュメントに明記されています。
仕様ファクトチェック
まずは外部接続の“動かし方”に直結する仕様を、ドキュメントで確認します。いずれもUIの画面遷移とあわせて具体的に説明されています。
- Redshiftは「プロビジョニングされた」クラスターへの接続のみが対象で、Redshift Serverlessは対象外であることが明記されている。取り込み前にSQLクエリや「Joins」で複数テーブルの結合、そのうえでSQLエディタによる編集が可能であることも記載
- Snowflakeは「OAuth」や基本認証に対応しており、こちらも取り込み前に複数データセットの結合やSQLによる編集が可能
- DocumentDBは「VPCのみモード」が必須で、同一VPC内のTLS対応クラスターにのみ接続できる要件有り
- Athenaは所定ポリシーで「AWS Glue Data Catalog」をクエリする前提、RDSはCanvas用のフルアクセス権限が必要、SaaSコネクタは表形式データの取り込みに限られる旨が示されている
上記は一見細かい差分ですが、ネットワーク構成、接続方式、権限設計、運用フローのいずれにも影響が出ます。以降は「いつ・どの選択をとるか」の設計方針に落とし込みます。
設計判断のポイント・実務の“つまずき”を先回り
SageMaker Canvasの接続設計で、最初に固めておきたい観点を整理します。いずれもプロジェクト初期の段取りで決めておくと後戻りが防げます。
- 接続対象の特性に合わせて「認証方式」を固定する(RedshiftはIAM、Snowflakeは「OAuth」推奨、RDS/JDBC系はユーザー名/パスワード)
- 「ネットワーク前提」を早期に確定する(DocumentDBは「VPCのみモード」、SaaS/外部DBはインターネット到達性か同一VPCかを決める)
- 取り込み前の「結合・フィルタ」をどこで行うかを決める(Redshift/Snowflakeのエディタで前処理を済ませるか、取り込み後のデータフローで行うか)
- 「役割分担」を明確にする(現場運用はCanvas、基盤横断の変換はGlueやAthenaなど他サービスに委譲する方針を定める)
上の方針は、ユーザー権限やUI機能の可用性、ネットワーク要件といった一次情報に基づいて意思決定できるのが利点です。特にRedshift Serverlessの非対応やDocumentDBのVPC要件は、ネットワーク/アカウント設計に強く効いてきます。
表 SageMaker Canvasの代表的データソース連携の仕様比較
データソース | 代表的な認証方式 | 取り込み前の結合/SQL編集 | 主な注意点 |
---|---|---|---|
Redshift(プロビジョンド) | IAM(接続作成時に選択) | 対応(JoinsとSQLエディタで編集可) | Serverlessは非対応、S3書き出し権限のロール指定が必要 |
Snowflake | OAuth/基本認証/Secrets Manager参照 | 対応(複数データセットの結合→SQL編集→単一ノード化も可) | OAuthは各データソース1接続制限、接続詳細の入力が必要 |
DocumentDB | ユーザー名・パスワード | 該当記載なし(インポート機能中心) | 「VPCのみモード」必須、TLS対応クラスターのみ |
Athena | IAM(所定ポリシー) | クエリ実行で表形式データを参照 | Glue Data Catalog配下のデータベースが対象 |
RDS(JDBC) | IAMポリシー+DB認証 | クエリでフィルタリング | 実行ロールにCanvas権限が必要 |
SaaSコネクタ | コネクタ別(OAuth等) | 非対応(表形式データの取り込みに限定) | 取り込みは表データのみ |
表は一次情報のドキュメントに基づき、接続方式・編集可否・前提条件の要点を整理したものです。個々の行の根拠は「接続方法」「認証」「編集UIの可否」に関する記述を参照しています。
オペレーション設計及びチェック項目
スムーズな運用に向け、最初に決めておくと効くポイントをチェックリスト化します。いずれも順不同で、該当するものから落とし込むのが現実的です。
- 接続先ごとに「最小権限のIAMポリシー」を用意し、個人用と共有用の接続を分離する
- Snowflakeは「OAuth」一本化で認証情報のライフサイクル管理を単純化する
- Redshiftは「プロビジョンド」前提で、クラスター識別子とS3書き出しロールの棚卸しを先に済ませる
- DocumentDBは「VPCのみモード」設計を先に確定し、同一VPC/TLS要件の満たし方をネットワーク図に反映する
- 取り込み前の「結合・SQL編集」を積極的に活用し、後段のデータフローをシンプルに保つ
- 標準化された“接続テンプレート”を作り、接続命名・責任者・更新手順を定義する
上記のうち、Redshiftの接続方式、SnowflakeのOAuth、DocumentDBのVPC要件は一次情報で仕様が明確なので、レビュー時に根拠を指し示しやすいのも利点です。
まとめ
SageMaker Canvasの外部接続は、細部の仕様が設計を決めます。初手で「Redshiftは『プロビジョンド』のみ」「Snowflakeは結合とSQL編集が可能」「DocumentDBは『VPCのみモード』」という前提を押さえ、認証方式・ネットワーク・権限を“先に”固めておくと、取り込みから前処理までの体験が途切れません。
逆にここを曖昧にすると、後工程でのやり直しコストが跳ね上がります。一次情報に沿って構成を固め、現場が迷わない運用ガイドに落としていくのが最短距離だと考えます。
なお、仕様は更新され続けるため、導入時は最新ドキュメントで差分確認を行うことを強くおすすめします。