主催者・講師について
開発人材育成・組織開発支援を手がける森近さんから、富士通ラーニングメディアの事業概要について説明がありました。
2017年にアジャイル研修を4コースでスタートし、2024年には30コース以上、累計5万8000人以上が受講しているとのこと。アジャイルの考え方がソフトウェア開発の枠を超えて広がっている実感は、日々の業務でも感じるところです。
登壇されたのは、SI工程研修講師の佐藤さん。アジャイル開発と生成AI、両方の研修を担当されている方です。
アジャイル開発とは
アジャイル開発の本質は、要求を整理して小さく分割し、短い期間で繰り返し開発を進めることです。これにより、変化に対応しやすく、価値を早期に提供できる開発が可能になります。
詳細については、「アジャイル・サムライ」などの書籍や、富士通ラーニングメディアの研修プログラム、IPA(情報処理推進機構)が公開している資料などで学ぶことができます。
アジャイル開発×生成AIの難しさ
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準備フェーズでの生成AI活用における失敗パターン
UX(ユーザー体験)設計の段階で生成AIを活用する際、以下のような失敗パターンが発生することがあります。
関係者の思惑と成果物の質がずれる
生成AIを活用する担当者の力量を超えた成果物が生成されることで、以下のような問題が生じることがあります。
- ジャーニーマップの質が良いものの、実態に合っていない 見た目は整っているものの、実際のユーザーの行動やニーズを反映していない
- モックアップの見栄えが良いが、修正できない 生成されたデザインが具体的な要件変更に対応できない
このような問題を防ぐためには、生成AIの使い方を適切に理解し、成果物の質を一定の水準に揃えることが重要です。
実践事例 開発フェーズでの生成AI活用
プロダクトオーナーの活用事例
目的: 短時間でリリースプランニングの準備を行う
使用ツール: ChatGPT
シナリオ: 情報技術者試験のアプリ開発を計画している場合
活用方法
- 既に用意されているペルソナやカスタマージャーニーマップを、生成AIにマークダウン形式で入力します
- 生成AIに対して、役割やMVP(Minimum Viable Product)、MMF(Minimum Marketable Feature)への反映を依頼します
- 形式(縦軸、優先度など)やインプット情報を明確に指定します
結果と注意点
生成AIを活用することで、人が手作業で記載するよりも大幅に時間を短縮できます。リリース計画も一次的に出力されるため、人間が手を加えて修正すれば十分に実用的です。プロジェクトの初期段階で時間を確保できるのは、PMOとしても大きなメリットだと感じます。
ただし、生成AIには「足し算する癖」があることに注意が必要です。つまり、要求以上の提案を追加してしまう傾向があります。そのため、生成された内容をよく考えずに提出せず、追加された部分が本当に必要かを判断することが重要です。
また、規模感も大きくなりがちなため、生成AIの提案に引きずられないようにすることがポイントです。本当に必要な機能は何か、何がゴールなのかを常に判断することが必須です。スコープクリープのリスクは、PMOとして常に気をつけている点でもあります。
開発者の活用事例
使用ツール: GitHub Copilot
開発言語: Python
活用モードと特徴
アスクモード
基本的なコードの出力をすぐに得ることができます。何か知りたいことがあれば、質問形式で回答を得られます。
エディットモード
アスクモードの結果に対して、機能を追加することができます。会話するような形でコードを拡張してくれるため、人間はほぼ会話だけで開発を進められます。
エージェントモード
試験対策アプリを作成する場合を例にすると、コンテキストとしてフレームワークのインストールや単体テストの実施を依頼すると、曖昧な指示でも解釈して実行してくれます。環境構築やフレームワーク、テストツールのインストールを提案してくるため、人間が許可を出すという形で進行できます。
ただし、テスト項目については異なる結果が出てくることがあるため、人間の確認が必須です。
生成AI活用における重要な注意点
品質管理の徹底
生成AIは素早く実行してくれますが、絶対に確認をしてください。品質管理を適切に行い、適当に進めないことが重要です。スピード重視で進めがちな現場では、この確認工程が後回しになりやすいので注意が必要です。
技術的負債の回避
時間に追われて技術的負債を増やさないことが重要です。生成AIがコードの保守性を考慮していない場合があるため、人の手で運用・メンテナンスすることを必ず考慮する必要があります。納期に追われる中で「とりあえず動けばいい」となりがちですが、後々のメンテナンスコストを考えると、ここはしっかり抑えておきたいポイントです。
長期視点と設計思想
長期視点や設計思想は、人間がルールとして定義する必要があります。完成の定義に必ず盛り込んで、関係者間で合意を取ってください。
レビュー工程への影響
作業者の時間は短縮できても、レビュアーの労力がかえって増えることがあります。生成AIを活用する際は、レビュー工程への影響も考慮する必要があります。プロジェクト全体の工数を見ると、作業時間の短縮分がレビュー工数の増加で相殺されてしまうケースもあるので、全体最適の視点が重要です。
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まとめ
生成AIをアジャイル開発に活用することで、開発速度の向上が期待できます。しかし、その効果を最大限に発揮するためには、以下の点が重要です。
- 生成AIの特性を理解し、適切に活用する
- 品質管理を徹底し、必ず人間が確認する
- 長期視点と設計思想を人間が定義し、合意を取る
- 技術的負債を増やさないよう、保守性を考慮する
人間の重要な役割は、価値体験を定義し、その責任を持つことです。生成AIは強力なツールですが、最終的な判断と責任は人間が担う必要があります。
本ウェビナーでは、生成AIを活用しながらも、人間の判断と責任が不可欠であることが強調されました。アジャイル開発の現場で生成AIを効果的に活用するためには、これらのポイントを理解し、実践することが重要です。
Ragateのプロジェクト進行では、議事録等の散文的な記録からAIの分析を通してタスク、課題を抽出し、情報整理に使用しています。
また、整理した情報からスケジュール、要件から設計書といった形で展開させ、内容の一貫性については人間がチェックするという形をとっています。
今回のウェビナーは基礎的な内容でしたが、本質的な課題について取り上げられていました。
このウェビナーを通して、AIは高速で仕事をしてくれるために、業務の密度が上がっていくにつれチェックがおろそかになってしまう可能性がある事に改めて気づきました。スピードが上がるほど、つい「まあいいか」と見落としてしまいがちなのは注意したい点です。
人間とAIの役割の線引きを意識し、
- 出力結果のチェック
- 長期計画、設計(プロジェクトやソースがどうあるべきか)
- その場しのぎの出力になっていないか
- 人同士のコミュニケーション、AIへの指示
という点に責任を持つことで、より信頼できる、効率的なプロジェクトを進めて行きたいと思います。















