生成AI時代に求められる人材像──技術と本質を見極める力がカギになる

生成AI時代に求められる人材像──技術と本質を見極める力がカギになる

最終更新日:2025年10月14日公開日:2025年10月14日
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生成AIがビジネストレンドとなる中、多くの企業が導入を急いでいます。

しかし現場の声を聞く限り、成功事例は少なく、むしろ目的なきPoCが横行している現実があります。今回は、生成AI導入における問題点と、SI企業が果たすべき本質的な役割について、経営者として感じていることを率直に書いてみます。

目的なきPoCという名の無駄遣い

生成AIの導入において最も残念に思うのは、「とりあえずやってみよう」というスタンスでPoCを始める企業があまりにも多いことです。PoC(概念実証)は本来、本番環境での成功を見据えた検証プロセスであるはずなのに、実際は「AIを使っている」という既成事実作りになってしまっているケースが散見されます。

これまで見てきた中で、成功するPoCには必ず明確な成功指標があります。例えば「問い合わせ対応時間を30%削減する」「ドキュメント作成工数を50%減らす」といった具体的な数値目標です。これに対して失敗するPoCは、「AIを使って何かできないか探す」という曖昧な出発点から始まっています。結果として、技術的には動くものができても、ビジネス上の価値を生み出せず、投資対効果が見えないまま終わってしまう。実にもったいない話です。

SI企業の残念な現状

さらに問題なのは、こうした目的なきPoCを推進・助長しているのが、本来は顧客の成功を支援すべきSI企業だという点です。内製化の波や競争激化により案件獲得が難しくなっている背景は理解できます。しかし、だからといって顧客の成功を度外視した提案は、長期的に見て業界全体の信頼を損なう行為です。

「生成AIを使った何か」を提案し、目的も成功指標も曖昧なまま開発を進める。これは言葉を選ばずに言えば、顧客を騙しているに等しい行為だと考えています。技術的に高度なものを作ったとしても、それが顧客のビジネス課題を解決しなければ、単なる技術の押し売りでしかありません。

実際、私たちRagateでは、まず顧客の現状分析から始めます。どんな課題があり、どんな未来を描きたいのか。そのギャップを埋めるために、生成AIが本当に最適なソリューションなのか。場合によっては「今は生成AIを使わない方が良い」という提案をすることもあります。それが本当の意味での顧客支援だと信じているからです。

これからのSI企業に求められる姿勢

従来のSI企業は、顧客から言われた仕様通りに開発することが仕事でした。しかし、その時代はとっくに終わっています。これからのSI企業に求められるのは、顧客のビジネス課題を深く理解し、適切な技術選定と戦略的な提案ができる能力です。

生成AIのような先端技術は、使い方次第で大幅なコスト削減や生産性向上を実現できる強力な武器です。しかし、それはあくまで手段であって目的ではありません。重要なのは、その技術を使って顧客のビジネスにどんな価値を生み出せるかという戦略的思考です。

私が考える理想的なSI企業の役割は、フライホイール的な成長サイクルを顧客と共に作ることです。適切な技術導入により顧客のコストを削減し、生まれた余力を新たなイノベーションに投資してもらう。そのイノベーションがさらなる成長を生み、次の投資余力を作る。このサイクルを回し続けることで、顧客と共に持続的な成長を実現する。これこそがSI企業の本来の使命ではないでしょうか。

顧客と共に歩むということ

最近、ある顧客から「Ragateさんは、私たちのビジネスを本当に理解してくれている」という言葉をいただきました。技術力を褒められることも嬉しいですが、ビジネス理解を評価されることの方が、私としてはずっと価値があると感じています。

生成AIブームに乗って短期的な売上を追求することは簡単かもしれません。しかし、それでは顧客との信頼関係は築けませんし、業界の健全な発展にも貢献できません。私たちは、顧客の成功なくして自社の成功はないという信念のもと、時には厳しいことも伝えながら、本質的な価値創出を追求し続けたいと思います。

格闘技で学んだことですが、相手と向き合うときは常に真剣勝負です。ビジネスも同じで、顧客と真剣に向き合い、本気で成功を願うからこそ、時には耳の痛いことも言わなければなりません。それが本当の意味でのパートナーシップだと信じています。

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