18歳から23歳、頭からっぽの勢いだけで突き進んだ日々
高校を卒業してすぐ、老舗会計システム提供会社でカスタマーエンジニアとして働き始めた。顧客先でハードウェアの修理やOSの調整を行う仕事で、営業と技術の両面を経験できたのは幸運だった。20歳を迎える前後にフリーランスエンジニアとして独立し、23歳でRagateを設立。これだけ聞くと順風満帆なキャリアに見えるかもしれないが、実際は違う。
18歳から24歳頃までは、本当に頭からっぽだった。若さを武器に勢いだけで選択を重ね、失敗の連続。出会った人たちに恵まれていなければ、訴訟トラブルに巻き込まれていてもおかしくない状況だった。朝6時から夜10時半まで働き、その後も自己研鑽や掛け持ち案件の対応。睡眠時間は3時間から5時間。365日24時間、正月もクリスマスも仕事。顔はストレスでニキビだらけ、彼女もできない。それでも「起業家みたいでかっこいい」「毎日が文化祭みたいで楽しい」という訳の分からないテンションで突き進んでいた。
20歳の時点で300万円の借金を抱え、2年かけて完済したと思ったら、創業支援融資で今度は1500万円の借金。創業から3年間は記憶が断片的で、「給与を3カ月払ったら倒産する」という危機感だけは鮮明に覚えている。シンデレラストーリーとは程遠い現実がそこにあった。
フリーランス時代の失敗が財産になった
当時は生成AIもメンターも普及しておらず、本を読んだり、イケてない e-Learning 視聴したり、ハンズオンで手を動かしたり、人に聞いたり、セミナーに通ったり、高額なスクールに投資したり、知り合いから小さな仕事を受けたりの繰り返しだった。今の時代は本当に恵まれている。学びたいと思えばすぐにチャレンジできる環境があり、生成AIという強力なメンターが24時間365日、文句も言わずにサポートしてくれる。
フリーランス時代、新宿のWEB制作会社でCTOを任せていただいたことは大きな転機だった。海外拠点の設立、組織作り、投資家との対話。人生初の海外渡航が仕事だったなんて思いもしなかった。毎日が刺激的で、感性を揺さぶられる経験の連続。真剣な国際恋愛も経験した。すべてが遠回りに見えるかもしれないが、その遠回りがあったからこそ、効率を自発的に生み出す力を養えた。
今の時代のプレイヤーには生成AIを駆使して効率的に仕事をしてほしいと思う一方で、遠回りすることは決して悪ではないということも伝えたい。遠回りすることで出会う人がいる。発見するツールがある。良い縁に恵まれることもある。効率化の時代だからこそ、時には非効率な道を選ぶことの価値を知ってほしい。
サーバーレスとの出会いが起業の原点
22歳の時、開発現場で触れたサーバーレス技術に感銘を受けた。サーバーインスタンスを立ち上げずに、コードをアップロードするだけでバックエンドが構築できる。マネージドサービスと統合すれば、機械学習やオブジェクト処理も可能になる。それまでずっとやってきたOSやミドルウェアの調整作業から解放された瞬間の感動は、今でも鮮明に覚えている。
当時の市場評価は「サーバーレスなんておもちゃだ」という声が大半だった。しかし、エンジニアとしての直感が確信に変わった。この技術は必ず日本のデファクトスタンダードになる。市場をひっくり返すほどのエネルギーを持っている。これを大衆化することで、すべての企業のエンジニアが、経営層が幸せになる。その想いを胸に、23歳でRagate株式会社を創業した。
年商1億円突破からの転落、そして事業ピボット
創業から3年間はSESと受託開発を展開し、売上は堅調に右肩上がり。3年目で年商1億円を突破した。順調に見えたその時、落とし穴が待っていた。主要顧客の1社との取引が突如消滅。心臓の動悸が早くなったのを今でも覚えている。
その企業は知人からの紹介案件だったが、その知人が顧客の経営層と結託し、買掛金の水増しと着服をしていたことが発覚。私たちは直接関わっていなかったものの、その知人に関連する企業は軒並み取引停止となった。結果を出していたし、落ち度は一切なかった。悔しかった。
しかし、この出来事が大きな転機となった。「そもそも、自分たちが顧客の課題に本当に寄り添った価値提供をしていれば、取引は継続できたのではないか」という問いが生まれた。そして決断した。売上の60%以上を占めていたSES事業からの撤退と、SI・コンサル事業へのシフト。正気の沙汰ではない選択だったが、自分の能力とリソースの限界点を理解していたからこそ、注力する事業を絞る必要があった。
GLOBISでの学びと現在のRagate
事業ピボット後、GLOBIS経営大学院でMBAを学んだ。経営戦略やマーケティングの知見と、これまで培ってきた先端技術のノウハウを統合することで、現在のRagateが生まれた。顧客のビジネス課題と戦略に沿った支援を展開し、先端技術・生成AI・サーバーレス・IT戦略策定を武器に、ビジネス成功指標の達成を軸としたソリューションを提供している。
振り返ると、頭からっぽで始めた起業だったが、その無謀さがあったからこそ今がある。遠回りしたからこそ見えた景色がある。失敗を重ねたからこそ、顧客の本質的な課題に向き合えるようになった。若さという武器は一度しか使えないが、その時期に全力で走り抜けたことは、今の自分を形作る貴重な経験となっている。
これからも、技術の最前線で顧客と共に走り続けていく。新しい技術が生まれ、市場が変化し続ける中で、常に顧客の成功を第一に考え、価値を創出し続けていきたい。