一番最強の市場価値は「誠実さ」である理由──技術も戦略も、結局は人で決まる

一番最強の市場価値は「誠実さ」である理由──技術も戦略も、結局は人で決まる

最終更新日:2025年10月18日公開日:2025年10月17日
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技術力、経営戦略、ビジネスモデル。これらはもちろん重要です。でも、8年間の経営と数多くのプロジェクトを通じて確信したことがあります。

それは、長期的に最も高い市場価値を持つのは「誠実さ」だということ。今日は、なぜ誠実さが最強の武器になるのか、実体験を交えながら話していきます。

「市場価値」という言葉の違和感から始まった思考

ビジネスパーソンの間で「市場価値を高める」という言葉をよく耳にします。多くの場合、それは資格取得だったり、プログラミング言語の習得だったり、MBAの学習だったり、何かしらのスキルや経験を指しています。僕自身もGLOBIS経営大学院でMBAを学習しましたし、AWS Top Engineers 2024を受賞したことで、確かに一定の市場評価を得られたと感じています。

でも、実際に経営者として日々向き合う中で、ずっと違和感を抱いていたことがあります。それは「本当に市場で選ばれる理由って、スキルや実績だけなんだろうか」という疑問です。

2017年の創業から現在まで、技術力や戦略の優劣以上に、最終的な成果を左右する決定的な要素が存在するという事実を目の当たりにしてきました。それが「誠実さ」です。

技術力だけでは組織は機能しない現実

AWS環境のシステム構築やサーバーレス開発において、Ragateは一定の専門性を持っていると自負しています。でも正直に言えば、高度な技術力を持つエンジニアは市場にいくらでも存在します。

では、技術力が高ければそれでプロジェクトは成功するのでしょうか。経験上、答えは明確にノーです。

プロジェクトを進める上で、技術的な難易度以上に難しいのが、チームとして機能することです。メンバー同士のコミュニケーション、情報の共有、問題が起きた時の対応、責任の所在。こうした「人と人との関わり」の部分で躓くプロジェクトを、数多く見てきました。

特に興味深いのは、ハイスキルな業務委託メンバーだけで構成したチームと、誠実さを重視して採用した正社員を主軸にしたチームを比較した時の違いです。技術力だけで見れば前者の方が優れているケースもありますが、実際のプロジェクト進行では後者の方が圧倒的にスムーズに進むことが多いのです。

もちろん、業務委託の方が必ず不誠実というわけではありません。ただ、一定割合で「自分の作業範囲以外は関心がない」「問題を報告しない」「他のメンバーとの連携を避ける」といった姿勢の人が混ざる傾向があります。対して、誠実さを重視して採用した正社員は、チーム全体の成功を自分ごととして捉える傾向が強いのです。

誠実さが生み出す「働きやすさ」という価値

誠実さが組織にもたらす最も直接的な効果は、働きやすさです。

誠実なメンバーで構成されたチームでは、自然と心理的安全性が高まります。わからないことを「わからない」と言える。失敗を隠さずに報告できる。意見の相違があっても建設的に議論できる。こうした環境は、誠実な人間関係があって初めて成立します。

逆に、不誠実なメンバーが一人でもいると、チーム全体の雰囲気が悪化します。約束を守らない人がいれば、他のメンバーが尻拭いをする羽目になります。問題を隠す人がいれば、後で大きなトラブルに発展します。責任を押し付け合う空気があれば、誰も積極的に動かなくなります。

働きやすさは、単なる快適さの問題ではありません。それはパフォーマンスに直結します。ストレスの少ない環境では、メンバーは本来の能力を発揮できます。逆に、人間関係の問題に時間とエネルギーを奪われる環境では、どんなに技術力が高くても成果は出にくくなります。

長期的な雇用とスキルアップの好循環

誠実さがもたらすもう一つの重要な効果が、長期的な雇用の実現です。

働きやすい環境では、メンバーは辞めません。当たり前のことですが、これが意外と難しい。IT業界は転職が活発で、優秀な人材ほど引く手あまたです。給与や待遇だけで人を繋ぎ止めることは、特に中小企業では限界があります。

でも、誠実な仲間と気持ちよく働ける環境は、給与では測れない価値を持ちます。お互いを尊重し合える関係、信頼して仕事を任せられる安心感、問題があれば率直に話し合える文化。こうした要素が揃った職場からは、人は簡単には離れません。

そして、長期的な雇用が実現すると、組織に知識が蓄積されます。メンバーは会社の文化や業務プロセスを深く理解し、より高度な仕事に挑戦できるようになります。新しい技術を学ぶ際も、安心して投資できます。なぜなら、習得した技術を長期的に活かせる環境があるからです。

Ragateでも、創業期から在籍しているメンバーは、当時と比べて技術力が大きく向上しています。それは単に経験年数が増えたからではなく、安心して学習に時間を投資できる環境があったからだと考えています。

スキルアップへの意欲を育てる土壌

誠実な環境は、メンバーの学習意欲を高めます。

これは一見すると不思議に思えるかもしれません。技術的な成長と誠実さに、どんな関係があるのかと。でも、実際には深い関係があります。

誠実な環境では、失敗が許容されます。新しい技術に挑戦して上手くいかなくても、それを責められることはありません。むしろ、その経験から何を学んだかが評価されます。だから、メンバーは安心して新しいことに挑戦できます。

逆に、不誠実な環境では失敗が攻撃材料になります。ミスをすれば責任を押し付けられ、新しい挑戦は避けられます。結果として、メンバーは保守的になり、成長が止まります。

また、誠実な環境では知識の共有が活発に行われます。わかりやすく説明する、質問に丁寧に答える、困っているメンバーを助ける。こうした行動が当たり前になると、組織全体の学習速度が上がります。

個人のスキルアップは、組織の競争力に直結します。だからこそ、メンバーが安心して学び続けられる環境を作ることは、経営戦略として極めて重要なのです。

連帯感とチームワークの源泉

誠実さは、チームワークの土台でもあります。

プロジェクトを進める上で、個人の能力だけで完結する仕事はほとんどありません。フロントエンドとバックエンドの連携、設計と実装の整合性、テストと本番環境の同期。あらゆる場面で、メンバー同士の協力が必要です。

誠実なメンバーは、自然と協力的になります。自分の作業が遅れれば正直に報告し、他のメンバーが困っていれば手を差し伸べます。全体最適を考え、時には自分の担当範囲を超えて動きます。

こうした姿勢が積み重なると、チーム全体に連帯感が生まれます。「一緒に良いものを作ろう」という共通の目的に向かって、メンバーが自然と協力し合う状態です。

この連帯感は、数値では測れませんが、プロジェクトの成否を左右する決定的な要素です。技術的な問題が発生した時、納期が厳しくなった時、想定外の仕様変更が発生した時。こうした局面で力を発揮するのは、個人の技術力ではなく、チームとしての結束力です。

誠実さは「再現性のある差別化要因」

ここで重要なのは、誠実さが単なる精神論ではなく、極めて実践的な競争戦略だということです。

技術トレンドは数年で変わります。僕が学生時代に学んだC言語も、今では直接的な市場価値としては限定的です。サーバーレスアーキテクチャも、10年後には別の技術に置き換わっているかもしれません。

しかし、誠実さという資質は時代や業界を超えて価値を持ち続けます。それは人間関係の根幹に関わる普遍的な要素だからです。

さらに重要なのは、技術は学習すれば比較的短期間で習得できますが、誠実さという性質は一朝一夕では身につかないということです。それは日々の小さな選択の積み重ねによってのみ形成されます。約束を守る、できないことをできないと言う、失敗を認める、仲間を尊重する。こうした行動を何百回、何千回と繰り返すことで、初めて「あの人は誠実だ」という評判が確立されます。

これは模倣困難性が極めて高い競争優位です。技術は学べても、組織文化は簡単には移植できません。だからこそ、誠実さを軸にした組織づくりは、持続可能な差別化要因になるのです。

採用市場でも誠実さは最強の武器

求職者の皆さんに、一つお伝えしたいことがあります。採用の現場でも、誠実さは最強の武器だということです。

面接で見栄を張って、実際にはできないことをできると言う人がいます。経歴を盛ったり、プロジェクトでの役割を誇張したりする人もいます。でも、そういった姿勢は必ず見抜かれます。

逆に、できないことを正直に伝えられる人は強い印象を残します。「このフレームワークは触ったことがありませんが、ドキュメントを読んで自習することはできます」「マネジメント経験はありませんが、将来的にはチームリーダーに挑戦したいと考えています」。こうした誠実な発言は、自己認識の高さと学習意欲の証明になります。

失敗経験を語れる人も魅力的です。「このプロジェクトで見積もりを誤り、チームに迷惑をかけました。その経験から、不確実性の高いタスクは早めにリスクを共有するよう心がけています」。こういった話ができる人は、失敗から学べる人だと評価されます。

採用担当者が本当に見ているのは、スペックシートに書かれた経歴ではなく、その人と長期的に一緒に働けるかどうかです。そして、その判断基準の中心にあるのが「この人は誠実か」という問いなのです。

Ragateでも、技術力が多少劣っていても、誠実で学習意欲の高い人材を優先して採用してきました。技術は入社後に学べますが、誠実さは簡単には変わりません。そして、誠実な人材で構成されたチームは、自然と信頼関係が強固になり、パフォーマンスが向上します。

これからの時代、誠実さの価値は上がり続ける

生成AIの進化により、コーディング、文章作成、データ分析といった多くの技術的タスクが自動化されつつあります。僕自身、日常業務でClaudeやGitHub Copilotを活用していますが、その進化速度には驚かされます。

この流れは今後さらに加速するでしょう。定型的な開発作業、ドキュメント作成、簡単なデザイン作業など、多くの業務がAIによって効率化されます。そうなった時、人間に残される価値は何でしょうか。

僕は、それが「信頼関係の構築」だと考えています。

AIは高度な技術的提案はできても、チームメンバーの微妙な感情を読み取ることはできません。正確な分析結果は出せても、失敗した時に誠実に謝罪することはできません。効率的なコミュニケーションは可能でも、長期的な信頼関係を築くことは困難です。

つまり、テクノロジーが発達すればするほど、人間にしかできない価値である「誠実さに基づく信頼関係」の重要性が相対的に高まっていくのです。

これは技術者にとって、ある意味で朗報だと思います。プログラミング言語やフレームワークの知識は陳腐化しても、誠実に仲間と向き合い、共に問題を解決しようとする姿勢は、どの時代でも価値を持ち続けるからです。

まとめ

技術力は重要です。経営戦略も不可欠です。でも、8年間の経営を通じて確信したのは、これらすべての土台にあるのが「誠実さ」だということです。

誠実なメンバーで構成された組織では、仲間同士が気持ちよく働けます。それによって長期的な雇用が実現し、安心してスキルアップに取り組めます。連帯感とチームワークが生まれ、個人の能力の総和を超えた成果が生まれます。

結局、ビジネスは人と人との関係で成り立っています。その関係の基盤にあるのが誠実さです。

短期的な成果を追うことも時には必要ですが、長期的に信頼される存在であり続けることが、結果として最も高い市場価値を生み出します。それは個人にとっても、組織にとっても同じです。

技術を磨くことも大切です。戦略を学ぶことも重要です。でも、それと同時に、日々の小さな選択の中で誠実であり続けることを、僕は大切にしていきたいと思っています。

それが、一番最強の市場価値だと信じているからです。

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