技術を起点にしても、誰も幸せにならない
僕たちのようなIT企業には、日々さまざまな相談が寄せられます。「AIを導入したい」「サーバーレスで何かできないか」「最新のクラウドサービスを使いたい」といった声です。もちろん、技術への興味関心は素晴らしいことですし、僕自身も新しい技術には常にアンテナを張っています。
ただ、こうした相談を受けたとき、必ず最初に聞くことがあります。それは「何を解決したいのか」「誰のどんな困りごとを解消したいのか」ということです。
技術を起点にプロジェクトを始めてしまうと、往々にして「技術は導入したけれど、現場では使われていない」「システムは完成したが、期待した効果が出ない」という結果になります。これは技術が悪いのではなく、技術を使う目的が曖昧なまま進んでしまったことが原因です。
イノベーションの起点は「課題」と「夢」
僕がRagateを創業してから8年以上、数多くの企業のDX支援に携わってきました。その中で成功したプロジェクトには、明確な共通点があります。それは「解決すべき課題」もしくは「実現したい未来」が明確だったということです。
たとえば、ある製造業の企業では「現場の作業員が毎日手書きで記録している報告書の作成に1時間かかっていて、本来の業務時間を圧迫している」という明確な課題がありました。この課題を起点に、RAGを統合したAIによる文章生成を組み合わせたシステムを構築した結果、報告書作成時間が15分に短縮され、現場の満足度も大幅に向上しました。
このプロジェクトで使った技術は、確かに先進的なものでした。しかし、プロジェクトの成功要因は「最新技術を使ったこと」ではなく「現場の作業員が毎日1時間を取られている」という具体的な課題を正確に捉え、それを解決する手段として適切な技術を選択したことにあります。
現状分析から未来像を描く
僕たちがプロジェクトを進めるとき、必ず現状分析(As-Is)から始めます。これはGLOBIS経営大学院で学んだフレームワークでもありますが、実務で何度も実践する中で、その重要性を痛感しています。
現状分析では、単に「何が問題か」を洗い出すだけではなく、「誰が」「どのような状況で」「何に困っているのか」をAs-Isとして具体的に把握します。そして、その課題が解決された未来像(To-Be)を描きます。このギャップを埋めるプロセスの中で、初めて技術の出番がやってきます。
技術はあくまで手段です。サーバーレスもAIもクラウドも、それ自体が目的になってしまった瞬間に、イノベーションから遠ざかります。逆に、明確な課題と未来像があれば、技術は強力な推進力になります。
ユーザーの声を聞き続ける姿勢
僕自身、学生時代からプログラミングを学び、20代はワーカーホリック気味に働いてきました。技術が好きで、新しいツールやフレームワークが出るたびに試したくなる性分です。でも、経営者として、また顧客の課題解決を支援する立場として、常に意識しているのは「技術の前に、人がいる」ということです。
システムを使うのは人です。そのシステムによって業務が楽になったり、新しい価値を生み出せたりするのも人です。だからこそ、僕たちはプロジェクトの最初から最後まで、ユーザーの声を聞き続けます。開発の途中でも、リリース後も、「本当に課題は解決されているか」「期待した未来に近づいているか」を確認し続けることが重要です。
技術の可能性を知っているからこそ
ここまで「技術ファーストではダメだ」という話をしてきましたが、誤解してほしくないのは、技術の重要性を否定しているわけではないということです。むしろ、最新技術の可能性を深く理解しているからこそ、それを適切に活用できると考えています。
僕たちRagateがAWS Top EngineersやRising Star Partners of the Yearを受賞できたのは、サーバーレス技術の黎明期から深く関わり、その可能性を追求してきたからです。技術への深い理解があるからこそ、顧客の課題に対して「この技術なら解決できる」「この組み合わせなら新しい価値を生み出せる」という提案ができます。
技術を知らなければ、課題解決の引き出しは限られます。でも、技術だけを見ていても、本当に解決すべき課題は見えてきません。両方のバランスが大切だと考えています。
まとめ
イノベーションは、技術から生まれるのではなく、ユーザーの課題や夢から生まれます。技術は、その課題を解決し、夢を実現するための強力な手段です。
僕たちは常に「誰の、どんな課題を解決するのか」を起点にプロジェクトを進めています。そして、その課題解決のために最適な技術を選択し、組み合わせ、カスタマイズします。この順序を間違えないことが、本当の価値を生み出す鍵だと信じています。
もし新しい技術の導入を検討している方がいたら、まずは「何のために」を明確にすることから始めてみてください。その答えが見つかれば、技術は必ずあなたの強力な味方になってくれるはずです。













