行動しない人ほど偏見が強くなる──試すことで更新される思考回路

行動しない人ほど偏見が強くなる──試すことで更新される思考回路

最終更新日:2025年10月29日公開日:2025年10月29日
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「あれは難しそうだから無理」「きっと時間がかかるはず」──実際に触ってもいないのに、そう決めつけてしまうことはないでしょうか。

僕自身、新しい技術やツールに触れるたび、事前の想像と実際のギャップに驚かされます。行動しない期間が長いほど、思い込みは強固になり、視野は狭くなっていく。今回は、行動することでしか得られない「思考の更新」について、自分の経験をもとに書いていきます。

行動しないと、思い込みは強化される

僕たちは日々、さまざまな情報に触れています。ニュース記事、SNSの投稿、同僚との会話。それらから得た断片的な情報をもとに、無意識のうちに物事を判断していることが多い。でも、実際に自分の手で試してみると、想像していたのとまったく違うことがよくあります。

たとえば、数年前に初めてサーバーレスアーキテクチャに触れたとき、周囲には「運用が複雑になる」「コストが読めない」といった懸念の声が多くありました。当時の僕自身も半信半疑でしたが、実際に小さなプロジェクトで試してみたところ、むしろ運用負荷は大幅に軽減され、コストも従来より予測しやすかった。事前に抱いていた不安の多くは、実体験に基づかない思い込みだったわけです。

行動しないままでいると、この手の思い込みがどんどん積み重なっていきます。一度形成された偏見は、新しい情報に触れても「自分の考えを補強する材料」としてしか機能しなくなる。心理学では確証バイアスと呼ばれる現象ですが、行動を伴わない情報収集は、このバイアスを強めるだけに終わってしまうのです。

試すことで、視点が変わる

一方で、実際に手を動かすと、思考が一気に更新されます。僕がこれまで関わってきたプロジェクトでも、顧客と一緒に小さな実験を繰り返すことで、当初の前提が覆されることが何度もありました。

ある企業では、業務システムの刷新にあたり「既存のやり方を変えるのは現場が嫌がるはず」という前提がありました。でも、実際にプロトタイプを作って現場に触ってもらったところ、むしろ「もっと早く導入してほしかった」という声が返ってきた。現場の人たちは変化を恐れているのではなく、変化の意図や効果が見えないことに不安を感じていただけだったのです。

こうした発見は、頭の中で考えているだけでは絶対に得られません。実際に動き、試し、フィードバックを得ることで初めて、自分の認識がアップデートされていく。これは技術に限った話ではなく、人間関係でも経営判断でも同じです。

「完璧に理解してから動く」は幻想

行動を躊躇する理由として、よく聞くのが「まだ十分に理解していないから」という言葉です。気持ちはわかります。僕自身、新しい技術に触れるときは不安もあるし、失敗したくないという思いもある。

でも、完璧に理解してから動き出すというのは、実際には不可能です。どれだけドキュメントを読み込んでも、実際に触ってみないとわからないことは山ほどあります。むしろ、ある程度の基礎を押さえたら、さっさと手を動かして試行錯誤するほうが、結果的には早く深く理解できる。

僕が経営大学院で学んでいたときも、ケーススタディを読むだけでは得られない気づきが、実際の経営判断やプロジェクト運営の中で次々と出てきました。理論と実践の間には、埋められないギャップがある。そのギャップを埋めるのは、行動することでしかないのです。

小さく試す習慣をつくる

では、どうすれば行動のハードルを下げられるのか。僕が意識しているのは、「小さく試す」ことです。いきなり大きなプロジェクトで新技術を導入するのではなく、まずは個人的な実験として、週末の数時間で触ってみる。社内の小さな課題に適用してみる。そうした小さな行動の積み重ねが、思考の柔軟性を保つ秘訣だと思っています。

最近では、生成AIの活用についても、まずは自分自身の業務で試してみることから始めました。ドキュメント作成の補助に使ってみたり、コードレビューの補助として活用してみたり。そうすることで、どこに強みがあり、どこに限界があるのかが体感としてわかってくる。

この「小さく試す」アプローチは、顧客企業への提案でも活用しています。大規模な導入の前に、まずは一部門での試験運用を提案する。そこで実際の効果を測定し、現場の声を聞き、改善を重ねてから本格展開する。この段階的なアプローチは、リスクを抑えながら確実に価値を届けるために有効です。

行動する人は、常に最新版

僕が尊敬する経営者や技術者に共通しているのは、みんな行動が早いことです。新しいツールが出たらすぐに触ってみる、新しいフレームワークが話題になったら週末に試してみる。そうやって常に自分の知識と経験を更新し続けている。

彼らが優れているのは、もともと才能があったからではなく、行動することで思考を更新し続けているからです。逆に言えば、どれだけ優秀な人でも、行動を止めてしまえば、そこから思考は硬直化していく。

僕自身、会社を経営しながら技術に触れ続けるのは正直大変です。でも、実際に手を動かすことをやめてしまったら、顧客の課題に対して的確な提案はできなくなるし、チームと同じ目線で議論することもできなくなる。だから、どんなに忙しくても、週に数時間は新しい技術に触れる時間を確保するようにしています。

まとめ

行動しない期間が長くなると、思い込みや偏見は勝手に強化されていきます。頭の中だけで考えていても、自分の仮説が正しいのかどうかは検証できない。実際に試してみて初めて、自分の認識がどれだけ現実とズレていたかに気づくことができます。

完璧に理解してから動くのではなく、ある程度の見通しが立ったらまず小さく試してみる。そうやって行動と検証を繰り返すことで、思考は常に最新版にアップデートされていく。これは技術に限った話ではなく、経営でも、人間関係でも、人生のあらゆる場面で言えることだと思います。

新しい技術やツールに触れたとき、まず「難しそう」「自分には無理そう」と感じるのは自然なことです。でも、その感覚をそのままにしておくのではなく、実際に数時間でもいいから触ってみる。そのひと手間が、あなたの視野を大きく広げてくれるはずです。

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