ソフトバンク主導で国産AI新会社「日本AI基盤モデル開発」が始動 NEC・ホンダ・ソニーら8社が結集した1兆パラメーター級AIの全貌

柳澤 大志
柳澤 大志 ITコンサルティング事業部・シニアコンサルタント
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最終更新日:2026年04月13日公開日:2026年04月13日

2026年4月、ソフトバンクを筆頭にNEC・ホンダ・ソニーグループなど8社が出資する国産AI新会社「日本AI基盤モデル開発」が設立されました。1兆パラメーター級のフィジカルAI開発を目指し、経産省の1兆円支援を背景に日本のAI自立に向けた一大プロジェクトが動き出しています。

2026年4月、日本のAI産業にとって歴史的な転換点となる出来事が起きました。ソフトバンクを中心に、NEC・ホンダ・ソニーグループなど計8社以上が出資する国産AI開発の新会社「日本AI基盤モデル開発」が設立されたのです。国内最大規模となる1兆パラメーター級の大規模AIモデル構築を目標に掲げ、経済産業省とNEDOからの総額約1兆円規模の政府支援を背景に、日本のAI技術自立に向けた一大プロジェクトが本格的に動き出しています。

本記事では、この新会社の設立経緯から開発体制、目指す技術の内容、そして日本のビジネス環境への影響まで、詳しくご紹介します。

「日本AI基盤モデル開発」設立の背景と経緯

近年、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)は世界中で急速に普及し、米国のOpenAIや欧米のAI企業が市場をリードしてきました。一方で日本は、製造業や金融など多くの産業で高い競争力を持ちながらも、基盤となるAIモデルの開発においては後れをとってきたのが現状です。

こうした状況を踏まえ、経済産業省は2025年から国産AI開発を国家戦略として本格的に推進する方針を打ち出しました。その核心に据えられたのが、民間企業が主体となって高性能な基盤AIモデルを開発するという構想です。ソフトバンクはこの構想の旗振り役として、NEC・ホンダ・ソニーグループという日本を代表する企業と手を組み、2026年4月に「日本AI基盤モデル開発」を設立しました。

本社は東京都渋谷区に置かれ、社長にはソフトバンクの国内生成AI開発を主導してきた幹部が就任しています。設立当初から約100人規模のAI開発技術者の集積を計画しており、国内外から優秀なエンジニアを招集する取り組みが進められています。

出資8社の役割分担と開発体制

ソフトバンク主導の国産AI新会社の組織体制

新会社への出資は、中核4社と少数株主グループに分かれています。ソフトバンク・NEC・ソニーグループ・ホンダの4社はそれぞれ十数%以上の株式を保有し、経営責任を共有する形となっています。これに加え、日本製鉄・神戸製鋼所・三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行・プリファードネットワークスがマイノリティ株主として名を連ねています。

各社の役割分担は以下のように整理されています。

ソフトバンク・NECは、AIの「頭脳」となる大規模基盤モデルの構築を主導します。両社はそれぞれAIインフラと技術力において強みを持っており、モデル設計から学習インフラの整備まで中核を担います。

ホンダは、完成した基盤モデルを自動運転やロボット技術に応用する役割を果たします。同社が長年蓄積してきた自動車・ロボット開発のノウハウとAIを掛け合わせることで、実用的なフィジカルAIの実現を目指します。

ソニーグループは、ゲームやエンターテインメント、半導体領域へのAI実装を担当します。イメージセンサーや音響技術など多彩なハードウェア資産を活かしたマルチモーダルAIの展開が期待されています。

また、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクが出資に参加したことは、金融分野における国産AI活用への強い期待を示しています。日本製鉄・神戸製鋼所が名を連ねることで、製造業でのフィジカルAI応用という方向性もより鮮明になっています。

1兆パラメーター級フィジカルAIとは何か

「日本AI基盤モデル開発」が掲げる最大の技術目標は、国内最大規模となる「1兆パラメーター級」の大規模AIモデルの開発です。パラメーター数はAIモデルの性能指標の一つであり、数が多いほど複雑なタスクに対応できるとされています。現状、世界のトップクラスのAIモデルは数千億から数兆パラメーター規模に達していますが、日本国内にはそれに匹敵するモデルが存在しておらず、この新会社の取り組みは日本AI技術の飛躍的な向上を意味します。

さらに注目すべきは、目指すAIの種類が単なる「汎用LLM」ではなく、「フィジカルAI」と呼ばれる新たな概念であることです。フィジカルAIとは、インターネット上のテキストデータだけを学習するのではなく、工場の製造ラインや自動車の走行データ、ロボットの動作ログといった「物理世界の産業データ」を深く学習し、実際の機械や設備を自律的に制御できるAIを指します。

日本の製造業は世界屈指の品質と精度を誇り、長年にわたって蓄積してきた産業データは他国にはない強みです。「日本AI基盤モデル開発」は、こうした日本固有の産業資産をAI学習に活用することで、欧米とは差別化された高付加価値なAIモデルを実現しようとしています。

また、画像・映像・音声・センサーデータなど多様な形式のデータを統合的に処理する「マルチモーダルAI」としての設計も構想されており、産業現場での実用性をさらに高める方針です。

経産省とNEDOによる1兆円規模の国家支援

1兆パラメーター級フィジカルAI開発のロードマップ

「日本AI基盤モデル開発」の設立を強力に後押しするのが、日本政府による大規模な財政支援です。経済産業省は2026年度から5年間で約1兆円規模の支援を実施する方針を示しており、2026年度の予算案には関連費用として3000億円超が盛り込まれています。

支援の実施主体となるのが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)です。NEDOは「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」として2026年3月末から公募を開始しており、「日本AI基盤モデル開発」はこの公募への応募を予定しています。採択されれば、5年間にわたる継続的な国家支援が確保される見通しです。

政府がこれほどの規模の支援を打ち出した背景には、AIが国の経済競争力や安全保障に直結するという認識があります。米中が巨額の国家投資でAI開発を加速させる中、日本も産官連携で対抗していく必要性が高まっています。今回の支援は、日本版の「AI国家戦略」の中核を担うものと位置づけられています。

なお、支援の対象となるのは基盤モデルの開発だけではありません。AIを動かすためのデータセンター整備やAI人材の育成・確保、さらには産業応用に向けた実証プログラムなども含まれており、日本のAIエコシステム全体を底上げする総合的な取り組みとなっています。

ソフトバンクのAI戦略とデータセンター整備

「日本AI基盤モデル開発」の設立は、ソフトバンクが描く壮大なAI戦略の一環でもあります。同社は2026年度から6年間で、AI開発・提供に必要なデータセンターに2兆円という大規模な投資を行う計画を発表しています。

具体的には、大阪府堺市にある旧シャープ液晶工場の跡地を活用した大規模AIデータセンターと、北海道苫小牧市での新設データセンターという2拠点の整備が進んでいます。いずれも2026年度中の稼働開始が予定されており、「日本AI基盤モデル開発」が必要とする大量の計算資源を提供するインフラとして活用される見通しです。

さらにソフトバンクは、OpenAIとの合弁会社「SB OAI Japan」を2025年11月に発足させており、エージェント型AI「クリスタル・インテリジェンス」を国内企業に提供するビジネスも展開しています。「日本AI基盤モデル開発」での国産基盤モデル開発と、OpenAIとのパートナーシップを組み合わせることで、国産AIと海外最先端AIの双方を活用した独自のポジションを確立しようとしています。

孫正義会長が長年にわたって提唱してきた「AIファースト」の経営戦略が、今回の国産AI会社設立という形で大きな実を結びつつあります。ソフトバンクは通信キャリアとしての強固な基盤を活かしながら、日本のAI産業のハブとしての役割を担おうとしています。

国産AI開発が日本のビジネスにもたらす可能性

「日本AI基盤モデル開発」の誕生は、日本のビジネス環境に対してさまざまな形でインパクトをもたらすことが期待されています。

まず最も大きな意義は、AI技術の「経済安全保障」面での貢献です。現状、多くの日本企業は米国発のAIサービスに依存していますが、国産基盤モデルが確立されれば、機密性の高い産業データを海外サーバーに送ることなく、国内で安全にAIを活用できるようになります。特に防衛・金融・医療・インフラなど、データの取り扱いに厳格な要件がある分野で大きなメリットが生まれます。

次に、日本語処理の精度向上が挙げられます。海外製のAIは英語を中心に設計されており、日本語での細かいニュアンスや業界固有の専門用語への対応が十分ではないケースがあります。国産モデルは日本語データを重点的に学習することで、より高精度な日本語対応が期待できます。

また、製造業をはじめとする日本の基幹産業への応用可能性も非常に大きなものです。フィジカルAIが実現すれば、工場の自動化や品質管理の高度化、設備の予知保全といった分野でAIがより深く活躍できるようになります。これは日本が得意とする「ものづくり」の競争力をさらに引き上げる可能性を秘めています。

さらに、国内のAIエンジニア育成・雇用という観点からも重要な意義があります。約100人規模の開発チームの立ち上げを皮切りに、国内でのAI人材需要が高まり、大学や研究機関との連携も活性化することが見込まれます。

一方で、課題もあります。世界トップクラスのAI企業と人材獲得競争を繰り広げながら、短期間で1兆パラメーター級モデルを開発するのは容易ではありません。また、5年という政府支援の期間内に商業的に自立できるビジネスモデルを確立できるかも、大きな問いとして残っています。

しかし、官民が一体となって取り組むこの大型プロジェクトは、日本のAI産業が新たなステージへと踏み出す第一歩として、国内外から大きな注目を集めています。「日本AI基盤モデル開発」の動向は、今後の日本のデジタル競争力を左右する重要なベンチマークとなるでしょう。

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