VMware環境を運用中のインフラエンジニアやクラウド移行担当者にとって、Amazon Elastic VMware Service(Amazon EVS)が VMware Cloud Foundation(VCF)9.0 および 9.1 をサポートしたことは大きな転機です。本記事では、この発表の要点を整理しつつ、Amazon EVS の基本、VCF 9.x で何が変わるのか、そしてオンプレミス環境からの移行と設計の勘所までを、公式情報にもとづいて解説します。既存の VMware 資産を活かしながら、AWS のスケールと統合性を得るための具体的な選択肢が見えてくるはずです。
Amazon EVS とは 自分の VPC で VCF を動かす新しい選択肢
Amazon EVS は、VMware Cloud Foundation を自分の Amazon VPC 内で直接稼働させられるAWS ネイティブサービスです。リプラットフォームやリファクタリングを行わずに、既存の VMware ワークロードをそのまま AWS 上へ持ち込める点が最大の特徴です。2024 年 12 月にプレビューとして発表され、2025 年 8 月 5 日に一般提供(GA)が開始されました。
提供リージョンは GA 時点で 6 リージョンでしたが、2025 年 11 月 6 日に 4 リージョンが追加され、東京を含む合計 10 リージョンで利用できます。基盤には AWS Nitro を搭載した EC2 ベアメタルインスタンスを用い、ステップバイステップの設定ワークフローまたは CLI から、数時間で完全な VCF 環境を立ち上げられるとされています。マネージドデータベース、分析、コンテナ、サーバーレス、生成 AI など240 を超える AWS サービスと統合でき、self-managed と partner-managed の両モデルに対応します。

従来の VMware Cloud on AWS が Broadcom によるマネージド提供であったのに対し、Amazon EVS は AWS ネイティブサービスとして「制御・選択・柔軟性」を前面に打ち出しています。利用者は VMware アーキテクチャを自ら完全に制御でき、self-manage を選べるため、運用の主導権を手元に残したままクラウドの恩恵を受けられます。
VCF 9.0 と 9.1 がもたらす進化
VCF 9.0 は2025 年 6 月 17 日に GAとなりました。Broadcom はこれを、コンピュート・ストレージ・ネットワークの仮想化を単一の運用モデルへ統合した「モダンプライベートクラウド」プラットフォームと位置づけています。トラディショナル、モダン、AI といった多様なワークロードを一貫した運用・ガバナンス・制御のもとで支えることを狙いとしています。
具体的には、プライベートクラウド運用の単一インターフェース、コスト管理やポリシー適用の統合、フリート管理、集中 IAM などが強化されました。vSphere Kubernetes Service(VKS)を組み込むことで VM とコンテナ、Kubernetes を同等に扱えるようになり、セキュリティの VMware vDefend や VMware Avi Load Balancer との統合も強調されています。ライセンス体系についても簡素化・変更が図られたとされています。
続く VCF 9.1 は2026 年 5 月 25 日に GAとなり、「API-first のプライベートクラウドプラットフォーム」を主眼に据えています。9.0 からの主な追加点は次のとおりです。
- Prometheus 互換のリアルタイムメトリクス API を提供し、ESX や vCenter、vSAN、NSX に対応するとされています
- Unified SDK が拡張され、NSX や VCF Operations、ログ管理、Fleet/SDDC ライフサイクル管理を包含します
- vSphere Terraform Provider が公式にサポートされ、VPC や EVC、Supervisor リソースを扱えます
- PowerCLI 9.1 では CPU トポロジ管理や NVMe over TCP、VPC ネットワーキングなどが加わりました
項目 | VCF 9.0 | VCF 9.1 |
|---|---|---|
GA 時期 | 2025 年 6 月 17 日 | 2026 年 5 月 25 日 |
主眼 | モダンプライベートクラウドの統合運用 | API-first と自動化 |
Kubernetes | VKS を組み込み VM と同等に扱う | 9.0 の基盤を継承し拡張 |
自動化・SDK | 単一インターフェースと集中管理 | リアルタイムメトリクス API と Unified SDK 拡張 |
Amazon EVS 上での VCF デプロイと構成の柔軟性
Amazon EVS 上での VCF 環境は、Broadcom のライセンス要件である最小 256 コアを満たすため、最小 4 ホストから構成します。i4i.metal は 1 インスタンスあたり 64 物理コアを備えるため、4 台で 256 コアに達します。スケールは最大 32 ノードまで可能で、対応する EC2 インスタンスタイプは i4i.metal と i7i.metal-24xl です。ストレージは VMware vSAN が担い、複数の ESXi ホストのローカルディスクを単一の分散データストアへプールします。
デプロイされる環境には vSphere、vCenter、NSX Manager、SDDC Manager、VCF Operations といった VCF コンポーネントが含まれ、いずれも root 権限でアクセスできます。ネットワークは十分な CIDR 空間を持つ VPC と、それぞれにピアを備えた 2 つの Route Server エンドポイントを前提とします。バージョンやインスタンスタイプは環境作成時やホスト追加時に選択でき、SELF_DEPLOYED を指定すればインフラのみをプロビジョニングし、VCF や ESXi を自分でインストールする運用も可能です。

今回の 9.x サポートでは、AWS インフラのプロビジョニングと VCF ソフトウェアのデプロイが分離されました。これにより、利用者は Broadcom ネイティブのワークフローで VCF のインストールや運用、管理を完全に制御できます。ライセンスキーなしで環境を構築して本番前に設計を検証できる評価モード(Evaluation mode)や、VCF 管理アプライアンスと AWS コントロールプレーンを結ぶ永続的な認証接続である EVS Connector も提供されます。さらに、Solutions for Amazon EVS として examples やテンプレート、IaC が公開され、CloudFormation と Terraform に対応しています。なお、EVS が提供する具体的な ESX 9.x のビルド番号などは公式ドキュメントでの表記を確認しておくと安全です。
オンプレミス VMware からクラウド移行するメリット
オンプレミスの VMware 環境から Amazon EVS への移行では、VMware HCX が公式にサポートされており、EVS 専用の移行ガイドも用意されています。HCX を用いることで、ハイパーバイザーを変更したりワークロードをリプラットフォームしたりすることなく、仮想マシンを移行できます。
接続方式は、ネットワークのジッタやレイテンシに敏感なアプリケーション、時間制約のある vMotion、大規模移行に向いたプライベート接続と、より手軽に始められるパブリック接続の両方を選べます。プライベート接続は Direct Connect や Site-to-Site VPN を利用し、インターネット経由よりも高い信頼性が期待できます。パブリック接続ではパブリック IPv4 のアドレスプールと HCX 用の Elastic IP を準備します。
移行そのものの負担が小さいことも見逃せません。IP アドレスの変更、スタッフの再教育、運用ランブックの書き換えがいずれも不要で、データセンターで今使っているツールや運用プロセス、スキルを Amazon EVS 上でもそのまま継続できます。既存資産を無駄にせず、慣れ親しんだ運用のまま AWS のスケールと周辺サービスへ橋渡しできる点が、移行の大きな魅力です。
設計と導入で押さえておきたいポイント
導入計画では、まずライセンスが BYOL(Bring Your Own License)である点を確認します。Amazon EVS のコストは、EC2 インスタンスの時間課金に加え、VPC の Route Server エンドポイント、そして EVS コントロールプレーンで構成されます。時間あたりの具体的な単価は AWS の料金ページで最新の値を確認してください。前提条件としては、最小 256 コアに相当する最小 4 ホスト、十分な CIDR 空間を持つ VPC、それぞれにピアを備えた 2 つの Route Server エンドポイントが必要です。
バージョン提供の考え方にも注意が必要です。Amazon EVS は Broadcom がリリースしたすべての VCF/ESX バージョンを提供するわけではありません。相互運用性は Broadcom Interoperability Matrix、ハードウェア互換性は Broadcom Compatibility Guide を参照して確認します。9.x サポート以前に EVS が提供していた VCF バージョンは 5.2 系で、これらは ESXi 8.0 系にあたりました。今回のサポート開始により、モダンプライベートクラウド世代の VCF を EVS 上で扱えるようになった意義は大きいと言えます。
最後に、リージョン対応の確認を忘れないようにします。VCF 9.0/9.1 のサポートは「EVS が提供される全リージョンで利用可能」とされていますが、実際のバージョン表への反映状況は取得タイミングによって異なる可能性があるため、利用予定リージョンでの提供状況を事前に確認しておくと安心です。次の表に、設計時に押さえておきたい主な考慮事項をまとめます。
観点 | 押さえておきたい内容 |
|---|---|
ライセンス | VCF は BYOL で持ち込み、EC2・Route Server・コントロールプレーンが課金対象 |
最小構成 | 最小 256 コア相当の 4 ホストと 2 つの Route Server エンドポイント |
バージョン | 全 VCF/ESX が提供されるわけではなく互換性ガイドを参照 |
移行 | VMware HCX を用いて既存運用を維持したまま移行 |
Amazon EVS による VCF 9.0/9.1 サポートは、自分の VPC で最新世代のプライベートクラウドを完全に制御しながら運用したいエンジニアにとって、現実的で有力な選択肢です。既存の VMware スキルと資産を活かしつつ、AWS の広大なサービス群と組み合わせられる点を、ぜひ設計検討の出発点にしてください。

















