Dify 1.14.0 の概要
オープンソースのAIアプリケーション開発プラットフォーム「Dify」が、バージョン1.14.0をリリースしました。Difyは生成AIを活用したエージェントやワークフローを視覚的に設計・デプロイできるプラットフォームとして、2023年3月の公開以来急速に成長しており、現在では175カ国以上・140万台以上のマシンで稼働し、2,000チーム以上のチームや280社以上のエンタープライズが採用しています。
今回の1.14.0では、開発チームのコラボレーションを根本的に変えうる「リアルタイムワークフロー共同編集」が最大の目玉となっています。その他にもMCPツールのメタデータ自動更新やHITL(Human-in-the-Loop)サービスAPIの追加、Docker Composeヘルスチェックの統合、Celeryデフォルト並行数の増加など、本番運用を意識した改善が多数盛り込まれています。
Difyを使ってAIワークフローを開発しているエンジニアや、チームでAIアプリケーション開発を進めるDX推進担当者にとって、注目すべきアップデートが揃っています。以下、各機能を詳しく見ていきます。
リアルタイムワークフロー共同編集とオンラインプレゼンス
Dify 1.14.0の最大の新機能が、「Collaboration(コラボレーション)」機能です。これにより、同一ワークスペースのメンバーが同じワークフローを同時に編集し、変更をリアルタイムで共有できるようになりました。
具体的には以下の機能が含まれます。
- グラフ更新のリアルタイム同期:あるメンバーがノードを追加・変更すると、他のメンバーのキャンバスに即座に反映されます。
- オンラインプレゼンス表示:現在そのワークフローを編集しているメンバーが一覧で確認でき、誰がどのノード付近で作業しているかを可視化します。
- 共有可視性(Shared Visibility):誰がどこで何をしているかが全員に共有され、作業の重複や衝突を未然に防ぎます。
この機能はFigmaやMiroといったデザインコラボレーションツールのような体験を、AIワークフロー設計の場面に持ち込むものです。複数のエンジニアが同一ワークフローを並行してレビュー・修正したり、リモートワーク環境でペアプログラミング感覚でワークフロー設計を行ったりといったユースケースに対応します。
なお、クラウド版(Dify.ai)では追加設定なしに利用できますが、セルフホスト(Docker Compose)環境では以下の環境変数の設定が必要です。
ENABLE_COLLABORATION_MODE=true
SERVER_WORKER_CLASS=geventwebsocket.gunicorn.workers.GeventWebSocketWorker
NEXT_PUBLIC_SOCKET_URL=https://your-dify-domain.example.comリアルタイム通信にはWebSocketが使用されるため、WebSocketに対応したワーカークラスへの切り替えと、フロントエンドがWebSocket接続先を把握するためのURL設定が必要となります。既存のセルフホスト環境からアップデートする際は、これらの設定変更を忘れずに行いましょう。

MCPツールメタデータ自動更新とHITL APIの整備
エンジニアにとって実用上うれしい改善が、MCP(Model Context Protocol)ツール周辺の強化です。
MCPツールメタデータの自動更新
これまで、MCPサーバー側でツールのメタデータ(名前・説明・パラメータ定義など)を変更しても、Difyの管理画面UI上の表示が古いままになるケースがありました。1.14.0では、ツールメタデータが更新された後にUIが自動的にリフレッシュされるよう改善され、常に最新の状態が反映されるようになりました。
また、以下のバグ修正も合わせて行われています。
- OAuth認可フローでパスが二重になる問題(例:
/v1/v1のような二重パス)を修正 - スキーマパブリッシング時に
checkboxとjson_object型が正しくマッピングされるよう対応 - OAuthディスカバリーで不正なJSONが返却された際の安全な処理を追加
これらの修正により、外部ツールとDifyを連携させる際の信頼性が大きく向上しています。
HITL(Human-in-the-Loop)サービスAPI
1.13.0で管理コンソール向けに導入されたHITL機能が、今回のバージョンでサービスAPIとして独立しました。これにより、プログラム側からHITLフローを制御できるようになります。
HITL(Human-in-the-Loop)は、AIが自動処理する途中で人間の判断・承認を挟むためのしくみです。たとえば、AIが文書のドラフトを生成した後、担当者がそれを確認・修正してから次の処理へ進む、というようなワークフローを構築できます。
サービスAPIとして提供されることで、外部アプリケーションやBPMシステムとの連携や、自社開発のダッシュボードからHITLタスクを管理するといった高度なユースケースにも対応しやすくなります。企業向けのAI自動化においてヒューマンガバナンスを維持したい場面で特に有効な機能です。

インフラ・運用面の自動化強化
本番環境でDifyを安定稼働させるためのインフラ改善も今回のリリースの重要な柱です。
Docker Compose ヘルスチェックの追加
Docker Compose構成において、api・worker・worker_beat の各サービスにヘルスチェック機能が追加されました。これにより、コンテナが正常に起動していない状態でリクエストが転送されることを防ぎ、サービスの信頼性が向上します。
依存関係のあるコンテナが起動完了を待ってから次のサービスが立ち上がるため、起動直後の一時的なエラーが発生しにくくなります。特にCI/CDパイプラインやスケールアウト時の自動復旧において、ヘルスチェックの有無は安定性に大きく影響します。
Celery デフォルト並行実行数を 4 へ引き上げ
バックグラウンドジョブの実行エンジンであるCeleryのデフォルトワーカー並行実行数が、従来より増加して4に設定されました。これにより、大量のワークフロー実行が発生した場合でも、より多くのジョブを並行処理できるようになります。
リソースに余裕のある環境では、環境変数 CELERY_WORKER_AMOUNT を変更することで、さらに多くの並行数に設定することも引き続き可能です。
PostgreSQL・Redis設定の改善
データベース周辺の設定も見直されています。
- PostgreSQLの最大接続数がデフォルトで200に引き上げられ、高負荷時の接続枯渇リスクが低減
- Redisに設定可能なキープレフィックス(Key Prefix)が追加され、複数Difyインスタンスが同一Redisを共有する場合の名前空間分離が容易に
- Redisへの接続にリトライロジックが追加され、一時的な通信断からの自動回復が可能に
これらの設定改善は、複数のDifyインスタンスを同一インフラ上で運用するマルチテナント構成や、高トラフィック環境でのDify運用を想定した強化と言えます。
セキュリティ強化とその他の改善
セキュリティ修正
今回のリリースではセキュリティ面での複数の対応も行われています。
- メール変更フロー厳格化:メールアドレス変更時のトークン検証が厳格化され、不正な変更リクエストへの耐性が向上
- IDORハードニング:Insecure Direct Object Reference(不正なオブジェクト直接参照)対策を強化し、権限のないリソースへのアクセスを防止
- テナント検証強化:データソースバインディングおよび外部データセットにおけるテナント検証ロジックを強化
エンタープライズ利用が増えるDifyにとって、セキュリティ対応の継続的な強化は重要なポイントです。本番環境でDifyを運用している場合は、速やかなバージョンアップを推奨します。
SQLAlchemy 2.0 移行とコードベース品質向上
内部的な改善として、データベースアクセス層でのSQLAlchemy 2.0への大規模マイグレーションが行われました。select() APIへの移行と、多数のコンソール・サービスレスポンスへのPydantic BaseModel 適用により、型安全性が向上し、将来的なコードメンテナンスが容易になります。
また、グラフ処理ロジックをまとめた「Graphon」が、独立したパッケージ(バージョン0.2.2)としてアップグレードされました。これによりグラフ関連の処理が疎結合化され、テストや保守が行いやすくなっています。
UIキットの充実
フロントエンド開発者向けには、@langgenius/dify-ui パッケージに新たな共有UIプリミティブが追加されました。PreviewCard や Meter などのコンポーネントが利用可能になり、Difyをベースにした拡張プラグインやカスタム管理画面の開発がより効率的になります。アクセシビリティの全般的な向上も含まれています。
アップデートの手順と今後の展望
セルフホスト環境でのアップデート方法
Docker Compose でセルフホストしている場合、以下の手順でアップデートを行います。
# リポジトリの最新化
git pull origin main
# コンテナの再ビルドと起動
docker compose pull
docker compose up -d
# マイグレーションの実行(必要な場合)
docker compose exec api flask db upgrade1.14.0でCollaborationを有効化する場合は、前述の環境変数(ENABLE_COLLABORATION_MODE・SERVER_WORKER_CLASS・NEXT_PUBLIC_SOCKET_URL)を .env ファイルに追記してから起動してください。
クラウド版(Dify.ai)利用の場合
Dify.ai のクラウドサービスを利用している場合は、追加の操作なしに1.14.0の機能が自動的に適用されます。コラボレーション機能についても、クラウド版では設定不要で利用できます。
今後の展望
Difyは急速な機能拡張を続けており、チーム・エンタープライズ向けの機能強化に力を入れています。今回のリアルタイム共同編集はその象徴的な一歩であり、生成AI開発の現場がよりチーム協調型にシフトしていく流れを反映しています。
AIワークフローの設計・管理はもはや個人作業ではなく、エンジニア・デザイナー・ビジネス担当者が連携して行うチームスポーツになりつつあります。Difyのコラボレーション機能は、このような開発スタイルを後押しするものです。
また、HITLサービスAPIの整備はAIガバナンスの観点からも重要です。企業が生成AIを本番業務に組み込む際、人間の監督・承認フローをプログラム的に管理できることは、コンプライアンスや品質管理の面で大きな意味を持ちます。
RagateではDifyを活用したAIワークフロー開発支援・AX戦略策定をご支援しています。Difyの導入や活用方法についてお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

















